挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

31/388

第1章「禁忌破り」28 追跡の始まり

カレナードは列車の揺れに身を任せた。
「ガーランド…。」
彼の脳裏にアナザーアメリカ創生伝説の一節が流れた。
『その昔、ヒトはあまねく大地に満ち、この世をまず作物で満たし、次に火と鉄で満たし、さらに汚わいと毒で満たしながら、あまねく大地の精霊を踏みつけ忘れ去った。ある時、大地の精霊はヒトが自分達と交感を絶って久しいことに怒り、あまねく大地を嵐で覆い、ヒトを滅ぼそうとした。
その時、1人の女がその血と魂を引き換えに、暗い地中から浮き船を呼び覚ました。わずかに生き残ったヒトはそれに乗り、アナザーアメリカの祖となった。女は浮き船の船主にして女王となった。浮き船はアナザーアメリカをあまねく廻り、嵐の壁に閉ざされた土地を全てのヒトの土地にした…。』
彼は父の遺体を前にして女王が見せた厳しい眼を忘れていなかった。
「マリラさま、どうかマヤルカ・シェナンディと僕に御慈悲を…。」
翌朝、二人はオーサ市への街道バスが出ているシルヴァン市駅で降りた。
ガーランドは次の調停地、東オルシニ山脈の東側、カローニャ領国のオーサ市に向かっていたが、そちらに向かう軌道列車の路線はまだなく、ここから先はバスが頼りだった。駅から一歩出ると北方独特の灰色の石造りの建物が連なっていた。円柱を玄関に構えた大きな駅舎の前に馬車とバスの大停車場があり、東メイス領国への運河の起点でもあるこの都市は、朝からものすごい混雑ぶりだった。
行商の女たち、各地を転々とする職人の一団、旅芸人、果物売り、弁当売り、出稼ぎに行く人帰る人、荷役仕事の男たち、水売り、新聞売り、自警団員、案内人、馬車の御者、放浪者。
カレナードたちは待合に入り ガーランドの噂を拾った。シルヴァン市東部に住んでいるという婦人が 、2日前にガーランドは南から来て北東に向かったと教えてくれた。その婦人は2人を頭のてっぺんから足の先まで見て「駆け落ちの最中ね?」と言った。その目はおもしろがっていた。そんな風に見る人もいるのだ。カレナードはつくづく自分がその方面に疎いと感じた。おかしかった。それほどの恋を知らない自分が駆け落ちと間違われている。
2人は地図を広げた。シルヴァン市の北東部は街道バスの路線から外れていた。途中までバスで行き、あとは自転車か馬で追うか。それともオーサ市に先回りして待つか。季節は冬至の直前で、いよいよ本格的な冬がそこまで来ていた。
カレナードは気になった。
「オーサの調停は新年になってからだ。早くて新年の10日とカローニャの人が言っていました。まだ23日もある。その間、ガーランドはどこで何をしてるのか…。」
「山脈を越えるのは間違いないわ。今年はまだ寒さが厳しくないから、ラッキーよ。オーサに行く前に追いつけられるんじゃないかしら。」
アナザーアメリカはこの時期どこも冬至を祝う。ガーランドでも冬至を祝うなら、乗り込む隙を見つけられるかもしれない。
2人はその日は宿で計画を立てた。マヤルカは毛皮の帽子と手袋を取り出し、自転車を磨いた。カレナードは胸が気になって仕方がなかった。古着屋で買ったコルセットに細工してから胸に巻いた。マヤルカが「それ、いいわね。」と、平たくなった胸を叩いた。カレナードは顔をしかめた。
「い、痛い。」
「ふふん、胸が大きくなる時は痛いことがあるのよ。しっかり締めておくのよ。」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ