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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」41 ハーリ、深みにはまる

第1甲板はメンテナンス部の徹夜作業で使えるようになったが、モス・ツーの修理は簡単ではなかった。
残りの訓練期間、カレナードには飛行艇の緊急離着陸と乱気流時の操縦演習が課せられた。1ヶ月以上のブランクは容易に取り戻せなかったが、彼は最終日には課題をこなしていた。
コクピットの感触は良かった。夏空のガーランドはまさに雄姿だった。その船体めがけて着陸態勢に入る時、彼は機体と一つになっていた。操縦桿の振動から飛行艇の速度と高度とエンジン出力と風圧を感じ取った。
「いい感覚だ」
彼はトペンプーラに会わねばならなかった。訓練終了日の空いた時間に情報部区画へ出向いた。そこでも訓練終了間際の訓練生たちが仕事を締めくろうと走っていた。
総務課でトペンプーラを待つ間にハーリが書類袋を持って入ってきた。カレナードは軍楽団の件を伝えようと彼に近づいた。ハーリの顔に警戒の色が浮かんだ。
「ハーリ、週末に楽団が儀仗行進の仕上げをするんだ。その練習には出てくれと団長からの伝言だよ。ヤルヴィも待っている」
ハーリは目を伏しがちに頷いた。
「情報部に用事ですか」
「人に会いに来たんだ。仕事の邪魔をして悪かった、ハーリ」
受付がカレナードを呼んだ。
「副長は10分後に来ますが、あまり時間がないようです。構いませんね」
ハーリは書類を分けながら、その会話を聞き逃さなかった。彼はトペンプーラが現れるのに合わせて仕事を終えた。総務課を出て脇の通路へ入り、カレナードとトペンプーラが会っている中庭の扉の陰に身を寄せた。トペンプーラの声がした。
「情報部副長としては叱らねばなりません。そして、友人としては嬉しいデス。あなたはずいぶん学びましたネ」
ハーリは耳を疑った。
「友人だと…!カレナードはそんなこと一言も…。彼はどれだけ秘密を持っているんだ…」
トペンプーラは続けた。
「四の月には出来なかったことに気づいたようですネ」
カレナードの顔に誇りと恥ずかしさが入り乱れた。
「常にきちんと分けられるほどには、しっかりしているとは思えません…」
副長は紋章人の手を取った。
「自覚しましたネ。我々とて、うまくコントロールし続けるには自覚と技術、時には人に助けられて乗り切るのデスから。
ところで、再び女王代役を頼むかもしれません。この先は事実上の実戦です。新参に無理強いはしませんが」
「考える時間がありますか。僕は講義の単位が足りないんです。来年も新参だとマリラさまに申し訳なくて」
副長は首を振った。
「カレナード、君は目の前に教師がいるのを忘れていますヨ。いくらでも鍛えて差し上げます。どの講義で難渋しているの」
「コード物理法則と応用重複理論です」
多忙な情報部副長が個人教授を買って出た光景に、ハーリはすさまじい嫉妬を覚えた。
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