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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」40 さざ波が押し寄せたとしても

男子訓練生棟へ帰る途中、彼らはヤルヴィに出くわした。
「皆で何を話してたの。僕、軍楽団長に会って、ハーリのことを相談したんだけど、彼が理由もなく練習を欠席し続けるなら、退団処分を考えてるって…。ねえ、班長ミシコ、力を貸してよ」
「T班の班長にも加わってもらうのがいいな」
ヤルヴィは眉をしかめた。
「T班班長は…苦手だ」
「そう言うなよ、一緒に行ってやるから」
しばらくしてミシコとヤルヴィは部屋へ戻ってきた。成果は芳しくないようだった。
「みんな、班長からの頼みごとだ。ハーリを見かけたら、この週末に軍楽団の仕上げの練習に出るよう伝えてくれ。とにかく無断欠席がすごくマズイと彼に教えなくちゃ。それが先だ」
その夜、久しぶりにカレナードはカーテンを引いて着替えた。
ヤルヴィとキリアンは秘かな楽しみを失い、落胆した。シャルは2人に耳打ちした。
「代わりに、これでも見てなよ」
彼が持っていた写真に夏至祭の舞台で踊る女王の姿があった。踊り比べの最後のソロの場面で、たくし上げた衣装の裾から、一直線に床に突き刺すような脚が映えていた。生々しさがあった。
キリアンはそれにゾクリとしたのを誤魔化した。
「こんなのが出回っているのか。いい趣味じゃないな」
ヤルヴィはまだ可愛らしかった。
「やっぱりお母さんの感じがするよ、マリラさまの脚。そう思わない、キリアン」
「お、お母さんかよ…」
後ろから声がした。「ボリュウムあるからね」
寝間着姿のカレナードだった。
「マリラさまの写真、見せてよ」
彼が話の輪に入ると、キリアンは不思議な香りを感じた。それは彼の心と体の芯にさざ波をもたらすものだった。写真に見入っているカレナードを、キリアンは彼だけのさざ波と共に見ているのだ。
「点呼!」
男子訓練生棟に鐘が鳴った。V班は廊下の端に並んだ。舎監の「よし!消灯!」の声が近づいてきた。キリアンは自分に問うていた。
「俺がカレナードに感じているのは、ただの欲望なのか。あいつの女の部分に男としてときめいているだけなら問題はない。俺はそこで立ち止まれるだけの理性は持ち合わせているからな」
確かにそうだった。彼はそうした部分の自分の不動の性質を知っていた。
しかし、その不動が行き過ぎたとき、何に変じるか。全く考えてもみないでいるのだ。彼は快くさざ波を受け、安全圏で楽しんでいるのを良しとした。
舎監は4階の端まで来た。
「よし!V班、消灯!」
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