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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」27 夜に旅立つ

マヤルカの目の縁には腫れが残っていたが、持ち前の生気は危機を乗り越える術を求めて強くなっているようだった。
「お姉さまも反対したって無駄よ。それより軌道列車の切符を手配して欲しいの。もちろんカレナードの分もよ。ガーランドを追うわ。」
シェナンディとカレナードが同時に言った。
「完了祭のように招待されるのとは訳が違うんだ。」
「駄目です、マヤルカさんは待っててください。」
マヤルカは叫んだ。
「このまま男の体で一生終われって言うの、お父さまもカレナードも!男になって花婿になって嫁さん抱いて父親になるなんてっ。死んでもいやああああっっ!」
「マ…マヤルカったら、人生設計を早まらないで。」
「お姉さま!私は絶対にスカートを履き続けるわ!」
マヤルカ以外の3人は、仁王立ちになって気炎をあげる娘に頭をかかえた。彼女はさっそく準備にかかった。食器棚から野営用の食器を2人分取り出し、荷物のリストをあげ始めた。
「カレナード、きっと自転車も要るわ。折りたたみ式のを2台用意して。お父さま、カレナードに冬服を出してください。それから靴よ、彼はブーツを持ってないの。冬の帽子と手袋のいい品もお願い。お姉さま、私のお金を全部手形に換えて!どこの領国でも使えるようにね。そうだわ、銃も貸して。」
「いけません、マヤルカお嬢さん!」
カレナードはマヤルカに近づいた。その頬をマヤルカは引っぱたいた。
「約束して、カレナード。私達は元の体を取り戻すまで一緒よ!逃げたら一生許さないわ。見つけ出して殺すからね。」
マヤルカの静かな怒りがカレナードの胸を痛ませた。
シェナンディは「全く…お前という娘は…。」と呻いて顔を両手で覆ったが、いきなり立ち上がって笑い出した。
「姉が豪気なら妹は剛毅だ。全く、わしの娘ときたら!カレナードと行きたければ、行きなさい。ただし、期限を切るぞ。3ヶ月だ。3ヶ月のうちに目的を果たせなかったら、あきらめるんだ。いいな。」
「あら、3ヶ月も!やってみせるわ、ガーランドに乗り込んでみせる!必ずね!」
フロリヤがカレナードにつぶやいた。
「お父さまはやるだけやらせる賭けに出たわ。危ないときは逃げるのよ、命だけは守ってちょうだいね、カレナード。」
フロリヤの顔は、かつて添い伏しのために階段を登るカレナードに見せたのと同じ表情をしていた。
その夜のうちにシェナンディ家から軌道列車の駅ヘ車が出た。フロリヤがハンドルを握り、駅の荷役用駐車場に入った。
「駅長には話をつけてあるわ。郵便貨物の車両に席があるそうよ。」
彼女は懐から書類入れを出して開いた。
「これはマヤルカの身分証明証、小切手、学生証、銃器類所持許可証、カレナードにはシェドナン奨学生資格証、父の手書きだけど身元証明書、シェナンディ精密機械工業従業履歴、それからこれよ。」
小さな革張り手帳が紙に包まれていた。
「あなたのお父さまのよ。父が領庫に没収されないよう隠してたの。あなたが奨学生の資格を得た時に渡そうと父は楽しみにしてた。こんな時だけど言わせてね、合格おめでとう、カレナード。」
カレナードは手帳を受け取った。
「父の匂いだ…。何よりの贈り物です、フロリヤさん。」
父が近くにいるように思えた。
「この手帳、鍵がかかっているわ。読めないじゃない。」
マヤルカが横から手帳をつついた。
フロリヤはおやめさないと妹を制して、手帳を一通り調べた。。
「鍵が錆びてるわ。残念ね、時間があればきれいにして針金一本で開けられるのに。」
夜行の軌道列車が動き出すとマヤルカは窓から手をふった。
「朗報をまってて。お父さまをお願いね。」
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