挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

序章

3/388

序章3 地霊は屠る(挿絵有)

何の応答もなかった。
闇の中、孤独に死ぬのは辛かった。何も分からぬまま生を終えたくなかった。マリラの指先に灰とも砂とも分からないものが降り積もっていた。
彼女は一旦気を失い、再び眼を開いた時には死が目前にあるのが分かった。彼女が見た死はうごめく黒い塊で、その中には巨大なエネルギーの気配があった。マリラはなぜか子供の頃に絵本で見た魔物を思い出した。
それは突如として彼女に語りかけた。
「ヒトの女よ、死にゆく女よ、死は怖いか」
「死にたくないわ…」
マリラはすがれるものがあれば、何でもすがりたかった。
「死は怖いか」
それはもう一度訊いた。
「ええ」
「なるほど。ヒトは死が怖いか。もっと生きたいか」
「ええ」
「もっと生きるとヒトはどうなるのか」
「出来ることをしてから死ぬわ。きっと…」
「ヒトの女よ、儂がお前の生と死を司ってやろうか」
「あ…あなたは誰…」
マリラは初めて相手が人外のものと知った。
「儂はヒトにはウーヴァと呼ばれていた。その名で呼ぶヒトは消えた。お前が儂の名を呼べば、儂はまたウーヴァになる」
挿絵(By みてみん)
「私を助けて…命を永らえさせて…!ウーヴァ、あなたは悪魔なの」
「知らぬ。儂はヒトが少し前にアメリカと名付けた大地だ。大地そのものだ」
マリラはミシシッピ河から見た平原を思い出した。あの時、彼女は人間の技術力に感動したのか、それとも自然の回復力に畏怖したのか。彼女は大地の精霊を平然と受け入れていた。それを不思議とも感じなかった。
巨大な黒い霧は、人と鳥が合体したような形に膨れた。人の顔が真ん中にあった。それは喋った。
「では契約だ。ヒトは儂に年毎に血を捧げ命を預けよ。お前の名を言え」
「アメリカの大いなる地霊ウーヴァよ、私はマリラ、マリラ・ヴォー」
「では、一度死をくぐれ。そののち一年を生きて、再び儂によって死をくぐる。それが続く限り、お前は命永らえる。
出来ることをしてから死ぬのなら、心に描くがいい、お前がすることを。儂はお前に力を預ける」
「分かったわ…ウーヴァ」
マリラは胸に鋭い痛みを感じた。ウーヴァが彼女の心臓を引き裂いていた。彼女は断末魔の苦しみにもがく暇もなく、息絶えた。地霊の黒い塊が絶命したマリラの体を飲み込んだ。
「ヒトは相変わらずだ。儂の上でやりたいようにしている。ふんふん、さっきから塵が儂をくすぐっておる。濃い塵の塊が地上の物を飲み込んで広がっておる。ヒトも飲み込まれておろう。
され、ヒトの女。マリラ・ヴォー。お前が何をやろうと儂は知らぬ。儂は傍らで見ているのみ」
しばしの沈黙のあと、ウーヴァから血まみれのマリラの体が転がり出た。彼女が意識を取り戻すのに数時間を要したが、再び開いた眼には何も恐れる事のない力が宿り、全身から凄まじいオーラが立ち上った。
彼女は裸のまま、すべきことをするために瓦礫の中を歩き始めた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ