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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」32 恋を捨てられなかった彼らは

道化はベランダ部屋の床に転がって喚いた。獲物を逃がした状況をどこか楽しんでさえいた。
彼の指は小さなアンプルを二つ挟んでいた。
「片方はレブラント殿に痺れ薬。もう片方はレー訓練生に濃い媚薬。おもしろいことになったやもしれませんのに、残念至極、真夏の夜の夢よ。うふふふふ…。
まったく、瑞々しい若者なんぞ早く汚れてしまえばいいのです…、小生のようにね。誰が言ったか、きれいはきたない、きたないはきれい…」
道化の眼に新しい涙が光った。口元は呪詛を行うが如く哂っていた。
その効果があったのか、キリアンとカレナードは点呼に遅れ、舎監にひどく叱られた。
しかし、告白文は書き上がった。
推敲に費やした多数のメモ書きを残し、週明けにドルジン教官に黒いケースを提出した。カレナードは一気に重荷を降ろした気分だった。
彼と入れ変わるように重荷を背負ったのは、ハーリ・ソルゼニンだった。
彼が情報部での訓練を志願したのも、また幼い恋心のためだった。
四の月に死んだマルゴ・アングレーへの想いがいまだに燻ぶっていた。彼女に永訣できないまま夏至祭が過ぎたとき、ハーリは衝動的にマルゴの足跡を追おうと決めた。甲板材料部からの誘いを断り、情報部で過ごすうちに彼の特別な才能は危うい形で目覚めた。
「情報部少佐以上が使うセキュリティ・コードを読唇で読み取れるなら、マルゴ姉さんがどんなふうに死んだのか調べられる…」
彼はその欲望を押さえ切れなかった。
書類整理とデータ分析に明け暮れる地道な毎日が急に狂おしい色彩を帯びた。その日から彼の全身が耳となり、上官の行動パターンを目が追った。そうして軍楽団の練習に遅れるようになったのだ。
ハーリが通う情報部統計分析課に少佐は3人いた。そのうちの目尻が垂れた優男の名はニキ・チャルマットだ。彼はハーリとすれ違うたびに、目尻が垂れる性癖の持ち主だった。ハーリはそれさえ利用した。
「チャルマット少佐、お手数ですが、第2保管室の奥の特別保管庫を開けてください。ブルネスカ領国と周辺緩衝地帯の調停記録の最近50年分が必要です」
少佐は手順を踏んだ。
「使用の目的と期間を述べたまえ」
「目的は調停記録内の玄街および運輸と産業構造の変化に関する記述抽出、期間は6日間。以上です」
チャルマットはハーリの顔から視線を外さずに立ち上がった。
「部長直々の洗い出しの件か。書類は毎日の作業が終わる度に、保管庫に戻すように。では来なさい」
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