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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」31 哭くや、道化よ

キリアンが道化の口上をぶった切った。
「なにが小耳だ。どうせ耳たぶを女王のマントくらい広げていたくせに。一体いつからここにいたんだ」
「おっほっほ!実は、最初からでございますよ。お二人が上の通路から入ってきたときには、小生は階段下のちょっとした窪みでスタンバっておりまして。レブラント訓練生が階段の上から大雑把に見たくらいでは分かりませんですよ。この暗がりではねッ!」
カレナードは手摺りから階段の下を見た。そこには運搬用通路に出る扉があったが、確かに小柄な人間が身を隠せるほどの窪みが扉の脇にあった。
「じゃあ、僕達の話を全部聞いたんだ」
「おっと、紋章人、そんな疎ましげな顔で小生を見ないでいただきたいですね。実のところ、小生、感銘を受けておりまして。うおおおおお」
道化の瞳がいきなり潤み、歪んだ両眼から鉄砲水の如く涙が飛び出た。
「うおおん。悪ふざけを生業とする道化にも、うおっ、うおっ、美しいモノに心打たれる日があるのでございますよっ!うおおお、ぐしっ、ぐしっ!」
道化の眼の周りから化粧が落ち、頬に黒い筋が出来た。彼は本当に泣いているのだった。
「うおおん。誰が言ったか、『恋は治療法のない一種の病気。ただしそれは世界中で一番美しい病気』と。紋章人、あなた、昔の恋を一つモン・デンべスに預かってもらって、マリラさまへの恋慕は綺麗にととのいましたよ。
うおお。羨ましや。このフール、目の前の、お二人の友愛が羨ましいでござるよ。ひっくひっく」
道化はふわふわした水色とピンクの縞模様の衣装からハンカチを取り出して顔を拭った。
消えかけた蝋燭の灯に、ますます滑稽な顔が浮かんだが、カレナードとキリアンはかえって笑えなかった。
道化の感涙の裏に、ギラリと刃のような雰囲気があった。
2人は顔を見合わせて、ベランダ部屋から出ようとした。
「失礼します、ワイズ・フール。新参は点呼の時刻です」
「ちょっとお待ちなさいよ、若者たち。夏の夜をも少し楽しんでいこうじゃありませんか」
道化は扉を塞ぐように立ち、腰の袋から酒瓶と色気のない琺瑯のカップを出した。
「恋の話はいいものでございますよ。小生、酸いも甘いも噛み分けて…おや、お二人、どこへ」
「ご無礼つかまつる!」
キリアンは道化の腰に手を回し、彼をくるりと部屋の奥へ放り出した。その隙にカレナードはテラスに出た。キリアンが続いた。道化は扉に突進したが、若者達は駈け出したあとだった。
「ちっ!せっかく毒酒を用意しましたのに!不覚なり、ワイズ・フールッ!美しい話なんぞ、小生に聞かせてはなりませぬッ!キエエエエーーーッッッッ!!」
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