挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

296/388

第8章「刃(やいば)の夏」30 モン・デンべスの頂上に

「区切りか」
「どう言えばいいかな…。肌身離さずにいたお守りを助産所の祠に返すような感じだ」
「ああ、7歳のお礼参りで収めるってやつだな。どこに収めるんだ」
「そうだな…」
紋章人が言い終わらないうちにキリアンは立ち上がった。
「やるなら今だ。見ろよ、大山嶺の最後の光だ。モン・デンべスの頂上が青灰色になっている。あそこに置いといてもらえ」
ベランダ部屋のガラスのはるか向こうに、大山嶺の最高峰、モン・デンべスの山頂がぽかりと浮いていた。標高4000メートルを越え、大山嶺の奥でわずかに光を受けて青いのは夏でも雪が残っているためだった。
その山頂にたどり着いた者はおらず、山裾に都市は出来なかった。修行者だけが山麓に暮らす霊山となり、あらゆる信仰を集めた。
キリアンの後でカレナードが動いた。彼はモン・デンべスの小さな青い色に向かってベランダ部屋を横切った。テラスの細い通路への出口を開けると、風が流れ込んだ。彼は通路に出て、風の中に立った。
キリアンは声をかけなかった。カレナードが幼い思慕の情に別れを告げるのをそっとしておいた。
青灰色の頂きは、見る間に色を変えていった。青が濁った藍色になり、白っぽい灰色になったかと思えば一呼吸を置かずに炭のような黒へと変化した。カレナードは夏至祭で見せた、あの腕の動きで両手を前に差し伸べた。
「さようなら、10年前のマリラさま」
モン・デンべスは夜の暗がりに消えた。大山嶺はすっかり闇の中になった。カレナードはベランダ部屋の入り口で待っているキリアンに告げた。
「告白文を書くよ」
「ああ」
キリアンはメモのカレナード・レブラントの領域に『女王と対等であるヴィザーツ』を書き込んだ。
「俺は認めているぞ。お前が懸命にヴィザーツになろうとしていることを」
カレナードは照れくさそうに頷いた。その額をキリアンは指で突いた。
「えらいスッキリした顔になりやがって」
「ははっ」
「まぁな。二の月のお返しだと思ってくれ。家に手紙を送れるようになったのは、お前のおかげさ。来年下船許可が出たら、故郷に招待するよ」
その時、階段の下から不気味な唸り声がした。哭くような、それでいて哂うような声だった。カレナードは聴き覚えがあった。
「ワイズ・フール!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!小生でございますよッ!なんですか、そんなにいやーんな顔をせずともいいではありませんかぁ。なになに、雰囲気ぶち壊しってか。これは申し訳ない。小生、お二人の話を小耳に入れまして~」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ