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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」29 恋を捨てる

カレナードは左手の入れ墨を蝋燭にかざした。マリラの紋章が緑色に揺らめいた。
キリアンは右腕を伸ばして、掌でそっと紋章を隠した。
「こうすれば、紋章人じゃない。お前はカレナード・レブラント。ガーランドの新参訓練生だ。アナザーアメリカン、ヒューゴ・レブラントの息子にしてヴィザーツの1年生だ。お前の基本はそこにあるんだ」
その言葉はカレナードの正気に訴えた。
「うん…。僕は忘れかけていた。いつの間にか紋章人の意識が大きくなって、それがマリラさまへと僕を強く引っ張っていく。すると混乱するんだ…、マリラさまを怖れる一方で、彼女に認められたいと切望してしまう。そのうちに何が何だか分からなくなる。浅はかだと感じているのに」
「お前はマリラさまの特別な何者かになりたいのか」
カレナードの耳朶がさっと朱を帯びた。
「それも…ある…かもしれない…」
「重症だなぁ、紋章人」
キリアンは医師がカルテに記すように、紋章人と書いた領域に『恐れ、承認、混乱、欲望』を書き加えた。
「お医者様でもベアンの湯でも治せない、か」
カレナードは狐につままれたような表情を浮かべた。
「それ、何」
「恋わずらいのことさ。
こんな言葉もあるぞ。『賢明な男は気違いのように恋することはあってもバカのように恋することはない』ってな。お前、このままだとバカまっしぐらだ。告白文も満足に書けないなら、女王に惚れた甲斐がないだろう」
キリアンはメモの二つの領域の境目に、『賢明な男』と書いた。
「マリラさまの特別な存在になりたいなら、子供の時の恋は、いっそ捨てたほうがいい」
「キリアン!僕は…」
カレナードは弾かれたように立ち上がった。キリアンは親友を見上げた。
「俺は6歳のお前を蔑んでもいなければ、否定もしていないぞ。それはとても尊いことだったんだ。座れよ、17歳のカレナード・レブラント」
カレナードはキリアンの落ち着いた声に曳かれるように、膝を折った。
「ああ…」
彼はぺたんと床に落ちた。
不思議と衝動が消えていった。
「目から鱗が落ちた感じだ…。そうだな、キリアン。こんな未熟者が簡単に女王に認められちゃいけない。ガーランド・ヴィザーツ全員に恨まれる…」
キリアンはうながした。
「それで、どうする」
「僕は…あの思い出を区切る」
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