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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」28 紋章人の心は

大山嶺に赤紫色の夕陽の名残りが輝いた。カレナードはワイズ・フールが隠れていないか確かめた。キリアンは持ってきた蝋燭を灯した。
「始めようか」
カレナードはもはや上手く話そうと思わなかった。オルシニバレ市郊外の山中でのマリラとの出会いに始まり、あとは思いつくままを語った。ときに口調は乱れかけた。
キリアンは辛抱強く耳を傾けた。
「夏至祭のゲネプロのとき、俺はお前がマリラさまにとても惹かれているのを感じていたが、それほど単純なことじゃなかったんだ」
「ああ、あの時は特別だった…。踊り比べの時だけは対等でいられたんだ。それ以外は…自分が奴隷のように思えて仕方がない…」
「女王のマリラさまがヴィザーツの女神とすると、私人のマリラさまは、紋章人を恐怖で縛る。まるで呪いの主か。乗船してすぐに『自分自身の意志で生きることを諦めねばならぬ』と言われたらな」
「僕は子供の頃のように、マリラさまに期待してはいけなかったんだ。なのに…」
キリアンは指を弾いた。乾いた音がした。
「自分を追い込むな。そしてマリラさまを責めるな。そうしたって、どうにもならないさ。さて…」
キリアンはメモを取り出した。
「図にすると、こっちが理性の効いているフィールドで、こっちが恋に狂っているフィールド、と」
メモの真ん中に線が引かれた。彼は片方にカレナード・レブラントと書き、もう片方に紋章人と書き留めた。
カレナードは訊いた。
「なぜ紋章人なんだ」
「お前の話を聞いていて、紋章人には名前がない感じがしたんだ。そして、お前がマリラさまに怖れを抱く時はたいがい『紋章人』でいる時さ。自分が奴隷のようだって言っただろう。女王の奴隷だけじゃない、お前は昔の恋の奴隷になっているんじゃないか。相手を等身大で見られない。そして自分がどうなっているかも分からない。マリラさまを慕う心に酔っているのか、怖れるあまり硬直しているのか…」
「自分が…どうなっているか分からない…」
「違うか」
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