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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」26 ヤルヴィ君も友の心配をする

カレナードはクルミ入りのパンを頬張った。キリアンは遠くを見ていた。
「マリラさまに会えなかったのは残念だなぁ。も少し早く上がって来てたら、お姿だけでも拝見できたのに。お前、会ったのか」
「ああ、まぁ…。ケースの事を言われたよ」
「書けよ。書いてすっきりさせろよ。俺はお前が罰を終えて復帰する日を待っているんだ。どうなんだ」
「命令違反の件は、僕が悪かった。それはよく分かったよ。清掃懲罰が何のためにあるか、それもよく分かった」
「でも書いてないんだよな、お前。目の色がヘンだし」
カレナードはそっぽを向いた。
「別に」
キリアンはにじり寄った。
「言えよ、二の月のようなことを繰り返さないように」
親友の眼はおっかない色を帯びていた。
「言えない」
「また抱え込んでる。悪い癖だ。そんな態度なら、お前とトール・スピリッツのコクピットに座りたくないし、これから先で小型高速艇に同乗したくない。この前みたいに、お前に殴られるのも嫌だ」
カレナードは深呼吸したが、かえって喉が詰まった。舌はうまく回らなかった。
「僕は…マリラさまが…その、昔、オルシニバレで…。魂を捧げるって、その。禁忌を…」
「何だって。聞こえないぞ」
カレナードは「少し待ってくれ…」と言い、両膝の間に顔を埋めてしまった。キリアンは放置できない状態と判断した。カレナードが自分の殻に籠る先ではロクなことがないのだ。
ヤルヴィも友人の心配をしていた。
ハーリ・ソルゼニンが軍楽団の練習にたびたび遅刻していた。
「彼らしくない!」
10歳になったばかりのヤルヴィとハーリにはV班メンバーとは違う友情があった。
音楽を通して、彼らは信頼し合った。
なにより軍楽団の中で、彼らは最年少であり、ともに奮闘する一番の仲間だった。
大宮殿での儀仗行進は、調停完了式に欠かせない儀式の一つで、領国の調停準備会関係者や領国府代表者の前で行われるものだ。軍楽団の演奏にのって、兵站部と総合施設部、そしてコード開発技術部の選りすぐりが荘厳で華麗な行進を繰り広げ、女王自らが調停にかかわった全ての人間を称え、調停完了の宣言を行った。
その演出によって、浮き船に招かれたアナザーアメリカンは、長い調停期間の緊張と苦労から解き放たれるのだった。
その大切な練習に遅れるのだから情報部はよほど忙しいのだろうと思っていたが、情報部勤務の楽団員はみんな揃っていた。
「ハーリだけが残業しているんだろうか」
ヤルヴィはフィドル席の情報部の青年に尋ねた。
「ソルゼニンなら書類整理と簡単なアナリスト研修をしているけど、基本的に残業はないぞ」
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