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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」24 夏のドレスが甲板に

6歳の少年のままの恋はいまだに生きていた。遠い思い出にしておくことが出来なかった。
あのとき、彼は女王の荘厳に魅入られてしまった。彼女が手に入らないものと知りつつ、いつしか彼にとって唯一無二の宝物になったのだ。
捨て去るどころか、17歳になるまで結晶のように魂に刻み込まれるとは。
マリラへの揺るぎない恋心は喜びであると同時に、彼を翻弄をもするとは。
彼は机の上の水色の紙に突っ伏した。左手の紋章と頬がやたら熱かった。
「気が狂いそうだ…」
考えていた文章は頭からきれいに消えていた。
数日後、第1甲板をマリラが訪れた。いつもの輝くオレンジ色の戦闘服ではなく、山吹色のショートドレスに真珠色のマント、煌めく肩飾りを付けていた。夏らしい色が磨かれた床に映えた。靴は白で、マントと同じ色の小さな帽子が纏めた髪の上に宝石のピンで留められていた。甲板員達は暑さを吹き飛ばすように歓呼した。
「女王!女王!」
マリラは手を振り、応えた。
「そなた達の働きぶりを見に来た。美しい甲板だ」
夏至祭以来、久しぶりに女王を間近にしてヴィザーツ達は色めいた。女官たちも夏の軽装で、白と水色の縞模様のドレスを着ていた。
緊急の用件を抱えていない者が女王の前に群れを成した。
遠くからその様子を見ていたカレナードは走り出したい衝動に震えていた。マリラのマントがなびくたびに、彼は夏至祭の夜を思い出した。マリラの誘いを拒んだことが今になって悔やまれた。女王の唇が未だ彼を求めているように思えた。いや、求めているのは彼の方か。
ヴィザーツたちが差し伸べる手に触れて応えているマリラは女神のようだった。
誰かがカレナードの背中を押した。
「行こうぜ、レブラント訓練生。罰のことは忘れていいさ」
それは竹つる眼鏡をかけた男、ヒロ・マギアだった。
2人はマリラが進む先に回り込んだ。ヒロは無礼にならない程度に声を張り上げてアピールした。
「マリラさま!御手を我らに!」
ヒロの思惑とおりマリラは彼に気付いた。ヒロは隣のカレナードにウィンクした。
「チャンスだよ、紋章人」
カレナードは大きく息を吸った。心臓の音が大きくなった。
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