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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」22 水色の時

清掃懲罰が始まって2週間が過ぎる頃、カレナードはそれまで上がったことのない天蓋メンテナンス通路への階段の踊り場にいた。
第1甲板全体が見えた。
約1100mの滑走路が空に伸び、足元には朝一番に磨いた奥甲板が光っていた。そこをメンテナンス部員のオレンジ色のヘッドギアがきびきびと動き回っていた。管制の指示通りにトール・スピリッツの編隊が発着し、その合間には、ニコル・ブロス機とキリアン機は見事なタッチアンドゴーを繰り返していた。
「シャルの兄さんもキリアンも、皆、上手くなっていく」
不思議と取り残された気持ちは消えていた。清掃懲罰を始めた頃は練習機を見るのがつらかったが、いつしか朝早くから磨き上げた奥甲板を皆が行き来することに満足を覚えていた。
彼は昼の休憩時間をそこで過ごした。夏の大地からの乾いた風は記憶を呼び覚ました。
「大山嶺の匂い…」
父とこの地で過ごした思い出は朧げで、砂岩と松の匂いと温泉の鉱水の味と陰翳の深い木々の光景だけがはっきりしていた。
モス・ツーが格納庫から上がった。彼はヘッドギアを着け管制の通信に耳をそばだてた。
『第一管制室からモス・ツー、ソカンリ・ジカへ。発艦姿勢を取れ』
アーモンド形の瞳が胸をよぎった。モス・ツーは滑走路を飛び立った。
「モス・ツーを傷つけないで乗りこなしてくれよ」
練習機は少しばかり右にふらついてから飛行コースに乗った。
カレナードの手のひらが汗ばんでいた。自分の練習機が心配なのかソカンリの操縦が心配なのか、分からなかった。
その夜、彼は黒いケースから紙を取り出した。告白文を書かねばならなかった。薄い水色の紙を前に、文章の断片を慎重に重ねて行った。
「ガーランドの組織において教官および上官の命令は絶対であり、一介の新参訓練生の自己判断は慢心に他ならない。私は自分の慢心とその根源を省み、未熟なヴィザーツであると自覚を…」
そうだ、自覚を、意識を変える必要がある…慢心とその根源にあるものを探らなければ…。変わりようがないのだ…。
彼は水色の紙に目を落としてから閉じた。
頑固さが元でV班のメンバーを殴る破目になったのは2の月。
怒りのあまりリリィを重病にしたのは5の月。
問題は独りで抱え込むべきでなかった…大人の態度になるべきだった…。
自分を探るには、さらに開かねばならない扉があるのを感じた。
慢心を生んだのは何だったのか…彼が急いでいたのは確かだった…一人前のヴィザーツになり…認められ…そうだ、最も認められたい人間がいる…。それは…扉の向こうにいる。
彼は重い扉を押した。宝石のような女がいた。
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