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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」18 泣きっ面にリンザ・レクトー

夏至祭のあと、彼女と3回デートした。2回目には「友人のキスでいいから!」とせがまれれば軽い気持ちで応じた。カレナードはかなり舞い上がっていたのだろう。彼女の要求以上のキスをした。
急によそよそしくなった彼女に腹を立てている暇はなかったが、腹は立った。数回のキスだけで彼女を自分の特別な存在にできたような愚かな勘違いがそうさせているのだが。
週末、乗務員控室を磨いているとき、彼女が1人で入ってきた。カレナードはモップを置いた。
「僕と話をしないんだね」
ソカンリは氷のような冷たさで返事した。
「首に黒いケースを下げている人ですから」
その声は、カレナードを凍りつかせた。その声は自分に係わるなと告げていた。これが彼女だろうか。甘えてキスをねだったあの瞳はどこへ消えたのか。
カレナードは道具を持って廊下に出た。情けなくても、強がってみせるしかなかった。
「ソカンリ・ジカとはもとから縁が無かったんだ。そう思うさ」
廊下の曲がり角で彼が出したモップにピード・パスリの足がぶつかった。
「馬鹿野郎!」
ピードはあいかわらず容赦がなかった。彼は即座に足払いをかけ、カレナードは尻餅をついた。ピードは膝でカレナードの胸を壁に押しつけた。
「曲がり角の確認も出来ないヤツがよくトールに乗ってられたものだ。性根がなってないぜ!」
そう言って甲板へ消えていった。カレナードはいつまでも廊下を塞いでいられず、急いで立ち上がった。胸がつかえて咳き込んだ。涙が滲んだ。
「…何なんだ」
彼は床を見据えてモップをかけた。自分が落とした涙を誰にも見られないよう何度も拭いた。その日、彼は夕方の定刻までに仕事を終えられなかった。午後7時半の日没と同時にやっと下層区へのエレベーターに乗った。リンザ・レクトーが先に乗っていた。
「まるで灰かぶり姫みたいね、カレナード!」
リンザは相変わらずあけすけに喋った。
「残業してたんでしょう。あたしもよ。管制用語を全部マスターするまで居残ってたの。あなたの班の班長さんなんか、一番先に合格出してもらって得意顔で教官室を出ていくものだから、ホント、憎たらしいわ。
でも十ヶ月訓練生には負けなくてよ。負けたら新参の恥よ。ああ、覚えるだけで汗かいたわ。
ねえ、一緒にエア・シャワーに寄っていきましょうよ。あなたもすごく埃まみれよ。それから夕食にした方がずっと気持ちいいわよ、そうじゃなくって!紋章人!」
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