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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」15 監房からの帰還

その日の夜にはスティレが、そして翌朝にはカンナが監房区を後にした。
彼女は去る前に言った。
「トペンプーラは私の上司なの。彼に伝えたいこと、あるかしら」
「懲罰を全部終えて、告白文も書いたら、自分で謝りに行きます」
「それがいいわね。それと、やけを起こして怪我しないことよ。その体が女でも、大切でしょ」
「え…」
カレナードは擦りむいた傷に手をやった。傷は薄いかさぶたを作っていた。
カンナは手を振った。
「オンヴォーグ、レブラント。また会えるといいわね。ここじゃない所でね」
牢獄に静寂が満ちた。あと数時間でカレナードの収監も終わる。だが告白文は書けそうになかった。
彼は午前中に磨き上げた房内を眺め、立ち上がって全身を壁面に映した。彼は自身の体と対面した。少々の勇気が要った。それまで鏡に裸体で向き合ったことはなかった。
「こんなふうに見るのをずっと避けて来た。変わってしまったことをいまだに認めたくなかったんだ…」
壁に向かって腕を伸ばすと、見慣れないもう一人の自分が腕を差し伸べているようだった。もう一人の自分は少々やつれた若い女だった。滑らかな体の線を追ってみた。
「女の体でも大切…か。そうだな、自分の体だものな…」
彼は思い切って壁に近づいた。鏡の中の自分と目が合った。
「告白文は書くさ。時間がかかるだろうけど。な、紋章人」
カレナードは額を壁にそっとつけた。彼と鏡の中の女は額を合わせ、立ち尽くした。
午後4時に、カレナードは第1甲板脇の教官室に出頭した。黒いメモケースを首に下げていた。
警備隊一同はそのケースに気付き、あきれた。
ドルジンはメモケースを裏返し、そこにマリラの紋章を認めた。
「レブラント、この意味が分かるか。お前の告白文は女王の元まで回覧されるんだ。下手なことを書くなよ。
さて、清掃懲罰の前に特B監房からの帰還を祝ってやろう。付いて来い」
その場の全員が甲板に出た。
「今から、航空部に恥をかかせた罰を受けてもらおう。耐えろよ」
隊員達がカレナードを取り囲み、手足を縛った。さらに衝撃防護シートを体に巻きつけヘルメットを被せると甲板に転がした。
「じっとしていれば、怪我しなくてすむぞ」
ドルジンが通信器のスイッチを入れた。
「トール・スピリッツD編隊へ。生け贄の準備よし。着艦開始」
カレナードは驚愕した。トール・スピリッツが3機、視界に入った。それらは速度を落として第1甲板へと近づいてきた。
彼はトールの着艦進入コース上に転がっていた。
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