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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」13 クラス・プリズン

「vなのよね。コードを制する音はvなのよ」
カンナ・ハーレは喜びに満ちて、指南役を務めていた。
亡き夫のために滂沱の涙を流したあの時とは全く別人になった。大人の物腰で悠々として、情報部の制服を着ていなくてもベテランの態度で新参訓練生に接していた。
仕事人の顔をしていた。眩しく、また、頼もしい姿だった。
カレナードの琴線に触れるものがあった。それは彼女が彼を女王の紋章人としてある種の敬意と共に接していることだった。そこで彼はあいかわらず一糸まとわぬ姿のことは忘れ、カンナとの問答に取り組んだ。
カンナが次のテーマを投げてよこした。
「上空3000m問題を、あなたはどう説明する」
「ああ…」
アナザーアメリカの空。それはザージ・ウォールで区切られた限られた空であるばかりでなく、高度3000mより高く飛べない空だった。ヴィザーツの浮き船も飛行艇もトール・スピリッツも3000mを突破することはできなかったし、アナザーアメリカンの飛行機乗りたちも同様で、多くの試みの末に操縦不能となった機体と共に操縦者の命を奪った空。
ヴィザーツはすでに100年前から高度2970m以上の飛行を禁止しており、アナザーアメリカンは飛行技術を上げては年間に数百人の犠牲者を弔わねばならなかった。カレナードがオルシニバレ市にいた10年間に、シェナンディ精密工業の製品を随所に使った飛行機が何機帰らぬまま空に消えたか。彼は覚えていた。
フロリヤ・シェナンディがテスト・パイロットを始めた時、彼女の旺盛な探究心がこの空の謎に向かわないことを、カレナードは心底祈った。フロリヤはその点では優秀な乗り手だった。かわりにスピードとコースを秤にかけて、ぎりぎりと胃の痛むような旋回をやってのけるのだが。
カレナードはホールの明かり取りの向こうの空を見た。
「僕は飛行艇とトール練習機の操縦席で高度2800mまで行った時、違う原理がすぐ上にあると自分に警告を発しました。生きて帰れない原理です。そうしないと3000mを突破したくなるでしょうから」
スティレが「賢明なり」と言った。「若い奴が無鉄砲か好奇心に負けるとそういうのに引っ張られるんだ。続けなよ、紋章人」
彼のいつものふざけた調子はかげをひそめ、兵站セクションの現場で候補生を仕込む顔が明らかにあった。
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