挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

272/388

第8章「刃(やいば)の夏」6 あの時、死んだ人

カンナは栗色の髪を掻きあげニヤリとした。
「外で何が起こってるかくらい分かる。
3日前からトール・スピリッツが定時飛行と訓練発着以外の動きをしてる。それに飛行艇の音がいつもより重い。特型装備を積んだ戦闘用機が少なくとも20は出てるわ。トペンプーラ副長からベアン屋敷経由で連絡があったんだもの。おそらくベアン市外で玄街の拠点の数か所を叩いてるわ」
スティレはゆっくり拍手した。
「さすがだね。でも泥酔はよくない」
「限度はわきまえてるわよ。けど、つらいのよ」
スティレは何度も頷いた。
「知ってる、知ってるさ」
「何が知ってるよ!知っているなら責めないでよ。夫が玄街に殺されたのよ」
「もう半年も経つんだ、いい加減にしろよ。泥酔が原因の任務支障でここに居るなら、旦那は何のために死んだんだ」
カンナの自制心がぐらついた。
「最前線にいるのは常に警備隊なの!あの人だけが不運だったとは言わないわ。でも、一の月の玄街侵入事件でたった一人だけの死者になるなんて。右肩から腰まで切り裂かれて、それでも助かるって施療部は言ってたのに…」
カレナードはそれは彼が乗船した時の戦闘だと分かった。
「覚えています、カンナさん。僕の目の前で倒れた人です。勇敢に扉を守っていた方です。」
カンナの顔がくしゃくしゃに歪むや滝のように涙が流れた。
「そうよ、勇敢なあの人の遺言だから守ってきたのよッ!彼は『俺が死んでも復讐心を抱かずにいてくれ』って書き遺してたのッ!でも、あたしは聖人じゃないわーーーーッ!!」
彼女は大声で泣いた。スティレとカレナードは待った。やがてカンナはタオルで鼻をかんだ。
「もう恨みを忘れるほど飲まなくてもいいわ」
スティレは視線を落とし、カレナードはホールの天窓を眺めていた。時々カンナがタオルを使う以外に音はなかった。
ヴィザーツといえども十分すぎるほどに人間であり、任務を離れれば胸中に渦巻くものはアナザーアメリカンとなんら変わらないと、いや、アナザーアメリカン以上に激しいと、カレナードは思った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ