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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」24 喪失の日

玄街の黒い影達は潮が引くように去り、家とガレージの奥から数人のヴィザーツが折り重なって倒れている2人に駆け寄った。先ほど口笛を鳴らせた婦人が2人の息を確かめた。
「ベスティアン、この子たちは生きてますわ。玄街のコードが全身に作用してるようだけど。」
門扉の所にいた中年の男が振り返った。彼は銃を腰のホルダーに戻した。
「よし、中に運んで調べよう。アナ、ガーランドへ入隊式にはミシコだけ出席すると伝えてくれ。おおい、バンス、ジュラース、手を貸してくれないか。アナは遮音室のテーブルに毛布とシーツを頼む。」
ベスティアンは軽々とマヤルカを抱えて、家の敷居をまたいだ。そのあとをバンスとジュラースがカレナードを運んだ。
カレナードは気づくと、苦しさのあまりテーブルの上で暴れた。鋭い痛みが胸と腹にあり、過呼吸で指先が震えるほどだった。ベスティアンは彼の口元に紙袋を当て、落ち着くのを待った。
「おい、君。脈拍は少々早いが、命の心配はしなくていいぞ。息を整えるんだ。そうだ、ゆっくりでいい。痛むのはどこだ。」
「む、胸と下腹部です…。すみません、ヴィザーツ屋敷に迷惑を…。」
「我々は玄街が君たちにしたことを確かめねばならん。君たちの責任を問うのはそのあとだ。」
彼は手際よくカレナードの衣服を緩め、玄街の残した言葉の痕を探した。そして、戸惑ったのちにカレナードに名前と所属と性別を訊いた。
一緒に調べていたバンスとジュラースの顔色がさっと変わった。ベスティアンは言った。
「ひどく痛む場所を触ってみなさい。」
それに従った少年の顔から血の気が引いていった。痛みをはるかに超える驚愕が彼を襲った。
「体が、僕の体が…!こんなことが、なぜ、なぜなんだ。」
彼の男の体はそこになかった。男である証しのものはなかった。かわりにあるはずのない女性のそれが脚の間にあった。胸はわずかだが膨らみを持っていた。喉の突起もなかった。彼は変貌の衝撃に震え始めた。
衝立の向こうからマヤルカの悲鳴が聞こえてきた。彼女にも同じことが起こっていた。アナが衝立の影で言った。
「玄街の仕業ね。ひどいことを。」
カレナードは奈落に落ちたのだった。
玄街ヴィザーツに狙われ、ヴィザーツ屋敷に入り込む禁忌を犯し、出資者の家族を巻き込んだ。
それは破滅に近かった。命はあるものの、オルシニバレ市での10年間は水泡に帰した。シェナンディの信頼も、出資寮の監督生の資格も、間違いなく失うのだ。
そしてマヤルカ。彼女を元に戻したかった。でも、どうやって。彼は混乱し、ショックで震えが止まらないまま、テーブルから落ちた。ベスティアンはカレナードを長椅子に座らせ、毛布を掛けた。
「じっといていなさい。彼女もひどく動揺している。」
そこへ1人の少年が入ってきた。
「父さん、母さん、僕はもう行かなきゃ。」
奈落の底からカレナードは見た。アナそっくりの濃い茶色の巻き毛とベスティアンそっくりの目と鼻を持つヴィザーツの少年。彼は銀色の刺繍のある上着を着こなし、立派に見えた。
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