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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」33 玄街の血

ヤッカの声が通信器から聞こえていた。
「レブラント、状況を報告しろ」
カレナードの震えは止まらなかった。
「パイロットと思われる男が死んでいます」
ヤッカはさらに命じた。
「身元を確かめろ。身分証を身につけているはずだ」
カレナードは唾を飲み込んで、一歩踏み出した。ティゲルの惨い死に顔から目をそむけて、彼のパイロットスーツのポケットを探った。内ポケットから血の付いた免許証が出てきた。ヤッカが言った。
「読み上げろ」
「…読みます。『ミルタ連合領国・サンラトー出身、ティゲル・ピグス。大型航空機および大型自動車運転免許交付・バイエン交通局、第259号』、以上です」
「当機の第2コクピットへ来い。モスツーは当機が曳いて帰投する。当分の間、お前が乗ることはないだろう」
その言葉にカレナードは動揺した。ヤッカは続けた。
「ティゲル・ピグスは玄街間諜だ。覚えておけ。お前が殺した初めての敵だ」
カレナードは自分の手を見た。スーツの手袋は血で濡れていた。
「僕が…殺したのですか」
「そういうことだ、カレナード・レブラント」
第2コクピットでは、ピードがトペンプーラに応急処置をしていた。カレナードはそれを手伝った。湿布を用意している彼にピードが言った。
「こうしていられるだけ、ありがたいと思え。お前は情報部副長を死なせていたかもしれないんだぞ」
カレナードは、意地を張った。
「僕は、トペンプーラさんに一番近いところにいたのです」
「紋章人っていうのは、たいそうな身分だな。俺には口が裂けても出ないセリフだ」
黙って手当を受けているトペンプーラに、カレナードは謝った。情報部副長はにべもなかった。
「今のあなたに謝罪を口にする資格はありません。どうしてもというなら、命令違反の罪を償ってからにしなさい」
ピードが事務的に言った。
「ガーランドに戻り次第、お前を逮捕する」
そのことばどおり、第1甲板には警備隊とエーリフ艦長が待機し、カレナードは手錠をかけられた。
四の月からわずか3ヶ月で、再び冷たい金属の感触が手首を伝った。
ヤッカ隊長機に遅れて、4機のトール・スピリッツと6機の練習機が着艦した。その向こうに、傷ついたグライダーをゆっくり曳いてくる残りの1機がいた。
ティゲルの輸送機は、大山嶺の中にうち捨てられたのだった。
浮き船の第1甲板に並んだ練習機から訓練生達が降りた。キリアンとホーンは整列しないわけにはいかなかった。カレナードが連行される前に声を掛けたかったが、無理だった。
3年訓練生のニコラ・ブロスが嘆息した。
「あいつ、やっちまったな。絶好調のときほど気をつけろって言ったのにな」
ホーンは遠くなっていくカレナードの後ろ姿を見ていた。
「新参の中で、最初に単独遠距離飛行の許可が下りたのはあいつだったのに」
キリアンは親友の新たな弱点を思い知った。
「カレナードの心は、まだアナザーアメリカンのままなんだ。頭だけでヴィザーツの役割を分かっていたって…。
それとも…単に未熟者なだけなのか…」
彼らの脇をトペンプーラを乗せた担架が通った。夏至祭の彼しか知らない彼らは、トペンプーラの短く切った髪と傷だらけの姿に衝撃を受けた。
甲板の上を乾いた夏の風が吹き抜けた。暑いはずなのに、誰もが震えた。
ドルジン教官が整列の号令をかけ、訓練生達は急いで駆け出した。半人前の彼らとカレナードの前に、混沌の季節が広がっていた。
次回から第8章「やいばの夏」に入ります。
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