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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」23 忌まわしき哉!(挿絵追加 2014/6/9)

彼はマヤルカの手を引いて、住宅街の大きな通りへ出ようと走った。だが、その手前で新たに黒い外套に黒い帽子の5人組が現れた。2人は急いで小道に逃れた。細い小道は塀と壁に沿って、6区へと伸びていた。黒衣は追ってきた。6区との区切りの通りに出る前に追いつかれ、全部で10人の玄街ヴィザーツに囲まれた。午後の静寂の中で、2人はただならぬ事態に陥った。
「カレナード・レブラント、お前に用がある。」
張りのある女の声がした。帽子にかけられた黒い紗のケープが上がり、顔がはっきり見えた。若く白い顔の中に、黒い瞳が濡れるように光った。
挿絵(By みてみん)
「我々のもとに来るがいい。お前に相応しい仕事がある。」
「お断りします。僕はここでやることがある。」
「気色ばらずに聞け。お前は自分でも気づいてないだろうが、ヴィザーツの才能を持っている。カレワランの息子よ。」
カレナードは驚きよりも怒りを感じた。汚らわしい玄街ヴィザーツが母の名を口にするのが許せなかった。だが、なぜ彼らは、いや、この女は母の名を知っているのだろう。
「玄街と罵られる我々にも道理があり、使命があることを知りなさい。さすればアナザーアメリカの理りを解し、お前はマリラの調停の世より我々と革命の道を選ぶだろう。私の手を取れ。カレワランの息子。」
「母の名を使うな。」
「怒るな。私はお前の母をよく知っているのだ。」
「嘘だ。」
彼は6区側に立っている玄街の何人かを突き飛ばした。マヤルカが後に続き、2人は囲みを抜けてヴィザーツ屋敷の方へ全力で走った。通りの先にヴィザーツ屋敷の生垣と鉄の大門が見えた。ちょうど門は金属が軋む音を立てて開くところだった。2人はその中に飛び込んだ。
カレナードは息を飲んだ。正面に飛行艇が4機並んでおり、青銅の屋根を持つガレージはシェナンディの工場よりはるかに大きかった。
「あなた方は!」
紫とグレーの簡素なドレスの女性が2人に近付いてきたが、すぐに玄街ヴィザーツが門から入ってくるのに気づき、ガレージではなく家へ鋭い口笛を吹いた。それからガレージに走って行った。カレナード達も彼女の後に続きたかったが、またも黒い集団に追いつかれた。例の女が飛行艇の前で転んだマヤルカに迫った。カレナードは女とマヤルカの間に入って、叫んだ。
「ここはヴィザーツの領域だ。玄街は去れ。」
「おや、我々もヴィザーツだ。お前たちは勝手な迷信で玄街を恐れるが、知れば喜びに変わるだろう。サージ・ウォールの外側を見たくはないのか、カレナード。」
奇妙な誘惑にマヤルカはぞっとした。
「玄街の女!気安くカレナードの名前を呼ばないで。」
女はマヤルカに笑い掛けた。馬鹿にするようではなかったが、少女はかえって敵愾心に燃えた。
「彼はうちの大切な従業員よ!消えなさい、疫病神ども。」
「知る気はなさそうだな。仕方ない。」
少年と少女は危機を悟った。それから逃れようと少年は無意識に生誕呪を口にした。そこがヴィザーツの領域なら何らかの突破口になるかと咄嗟に考えたのかもしれない。玄街ヴィザーツの動きが一瞬止まった。
カレナードはマヤルカを引っ張り、飛行艇の奥へ逃げようとした。その途端に無人の飛行艇のエンジンがかかった。飛行艇の下部から吹き上がる疾風でカレナードとマヤルカは地面に転がった。そこを黒い影が覆った。玄街の黒い装束が2人に迫り、カレナードはマヤルカをかばって彼女の上に身を投げ出した。
「お嬢さんに手を出すな。」
「カレナード・レブラント、惜しいな。」
女の合図と同時に玄街のヴィザーツ達は一斉に謎の言葉を唱え、言葉は少年と少女の全身を激痛と共に貫いた。2人は気を失った。
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