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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」24 外れのヴィザーツ屋敷とて

テレマンは歓迎する様子もなく歓迎の言葉を述べた。
「ようこそ我らの屋敷へ。モトイーから話は来ている。お前さんを何と呼べばいいのかね」
「トペンプーラで十分です、テレマン老師」
「余裕だな、実名を出すとは」
「ワタクシの名前は記号のようなもの。ガーランド・ヴィザーツを代表して、外れのヴィザーツ屋敷の方々に深く感謝申し上げマス」
テレマンの不機嫌さに拍車がかかった。
「さすがガーランドの情報部だね、我々より立場が上だとさりげなく匂わせるとはよろしくない態度だ。外れのヴィザーツなどと軽々しく舌に乗せるものでなかろうよ」
「さすが海千山千の老師でおられる。いまだ若輩の身であるガーランド・ヴィザーツの無礼をお許しください。自戒いたします」
がっしりと腕を組んでいたテレマンの口元が緩んだ。彼が小柄な体躯から、鉱泉の香りがした。
「はっ、海千山千とはようも言いおったな、若輩者め。まあ食え」
2人は素朴な煮込み料理を囲んだ。テレマンは地酒を少しずつ勧め、自分も飲んだ。
「我々は綱渡りの人生を送っている。ヴィザーツでもあり。アナザーアメリカンでもあり。
どちらかに傾き、落ちてしまえばそれまでよ。まだ、お前さんのように生粋のヴィザーツである方が気安いか」
彼はトペンプーラの顔色をうかがうことなどしなかった。
トペンプーラにとっても妙に気遣いをされるより気は楽だった。
「テレマン老師、ワタクシの生まれはアナザーアメリカンですがヴィザーツの人生を選びました。血筋は生粋でなくとも、人間の土台はヴィザーツです」
「ふっ、人間の土台とはね。ものは言いようだ」
「綱渡りなのはワタクシも同様。情報戦の勝利なしで玄街を押さえるなど不可能」
「その情報戦の一翼を担っているのは、我々だ。
外れのヴィザーツが代々どれほどの仕事を積んで来たか、浮き船の連中は知っているのかね」
テレマンはトペンプーラの杯に酒を注いだ。トペンプーラは礼を返して言った。
「情報だけでなく、種々の医薬品から日用雑貨までありがたくいただいております。なによりマリラさまは十分にご存知です」
テレマンは自分の杯の中を覗いた。
「女王が御存知でなくてどうするね。マリラ女王はどのヴィザーツ屋敷にも公平に耳を傾けて下さるよ。だからこそ我々はコード使用制限条例を受け入れ、アナザーアメリカンとほぼ変わらぬ暮らしに身を置き、玄街と隣り合わせて生きている。時に奴らに襲われ、あるいは誘惑されながらね」
「ここからも玄街に身を投じた者がいるのですネ」
「仕方ない。それはマリラさまも認めておられることだ。玄街に心惹かれる者を止められるものなら、心が痛みはしないよ」
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