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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」23 保養地のトペンプーラ

その日、午後遅くにポーの助産所に向かうヴィザーツの交代要員に混じって、トペンプーラは飛行艇に乗り込んだ。
20分の飛行でポーのヴィザーツ屋敷前の広場に着いた。
十分に変装していた。少なくともその日のうちに彼がトペンプーラだと分かる玄街の諜報員はいないと思われた。
日暮れに彼はアナザーアメリカンの保養客に扮して鉱泉街を散策した。
暑い日差しが和らぎ、多くの保養客がそぞろ歩いていた。彼らは大概ゆったりした服装で、鉱泉コップを持ち歩いていた。時々コップの吸い口から鉱泉を飲みながら山裾の遊歩道を行き来するのが、保養地スタイルだった。
長い遊歩道から少し高台にある貸し邸宅地帯に向かって、トペンプーラはぶらぶらと、しかし、油断なく近づいて行った。
目的の家は2階建ての薄茶色をした素朴な壁を持っていた。窓と玄関には繊細な装飾がついていて、素朴な壁に軽やかな豪華さを添えていた。
「なかなかいい趣味の邸宅のようですネ」
遊歩道に沿った壁には大きな窓がなく、中の様子をうかがうことは難しかった。明かりが点いた窓があることから、明らかに玄街ヴィザーツが居るのが分かった。
大きな柳が玄関脇にあった。トペンプーラはその木に寄り掛かって、鉱泉コップを口に運んだ。
中から若い男の声とそう若くない女の声がした。2人は台所にいるようだった。玄関には侵入者除けのトラップのかわりに、訪問者を確認するための反射鏡が軒下に取り付けられていた。
「結構な大きさの鏡が角度違いに2枚デスか。さて」
彼はゆっくり遊歩道に戻った。そこへおかもちを下げた少年がやって来て、呼び鈴を何度も引っ張った。
「ゴブランさぁん、ポー・ポチラン食堂の名物チャーハンですよう、お待たせいたしましたあ」
ドアが開いて、40歳前後の女が現れた。彼女はチャーハンの包みを確かめた。
「ご苦労さん。はい、御釣りはいいわよ」
硬貨がこすれる音がして、少年のポケットに収まった。彼は勢いよく脇道に入って駆け降りていった。トペンプーラもその道を下った。
ポーの町の大通りに白い街燈が灯り始め、そこにも保養客が夕食に繰り出していた。
「さしずめ『素晴らしき宵』というべき風景。誰も玄街の心配などせず楽しんでいますネ。奴らもここで事を起こすのはまずいと分かっているようです。
そこが狙い目かもしれません」
大屋根の建物が広場に面していた。そこはヴィザーツ達が簡単な施療術を行う特別療養所で、アナザーアメリカンに開放されていた。
ヴィザーツの薬湯や鍼灸を求める人々は多く、宵の口まで穏やかに賑わっていた。
トペンプーラは療養所から、巧みに隠されたヴィザーツ専用の通路に入った。中庭に出ると、3階建ての石造りのアパルトマンが三方を囲んでいた。
彼を見かけた年嵩の女が声をかけた。
「食堂でこちらの屋敷の代表がお待ちしています」
女は先に立って右側の建物に向かった。中庭には鉱泉が流れる溝に蓋がかかっていた。その一つを横切り、共同食堂に入った。
奥まったテーブルに代表のテレマンが不機嫌に座っていた。
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