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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」20 追っ手の影

トペンプーラは街中に出た。七の月の夕暮れは遅かったが、乾いた空気が涼しさを運んだ。彼は官庁街に続く大きな並木道を歩いた。
途中で人気のないベンチに腰を下し、例の遠距離通信器を仕込んだ本を取り出した。黄色と赤のボタンをあるパターンで数回押した。
「これでアンドラ部長からワタクシへの手紙は止まるでしょう。明日は電信局の私書箱を閉めましょう」
彼は仕事帰りの人々に混じった。彼はどこから見てもアナザーアメリカンの中年男だった。
周りの歩調に合わせて歩くと、わずかに視線を感じた。ヴィザーツ屋敷の正面正門から堂々と出たのは、わざと玄街の注意を引くためだった。
「早いですネ。でも、ドミ・ヘットの家を教えるつもりはありません」
トペンプーラは路面電車の駅に近い歓楽街に入った。夜の遊興のための店が軒を連ね、すでに客引きの派手な衣装が見え隠れした。
彼は何度か寄っていた立ち飲みバーに入り、そのまま奥の手洗いに向かった。途中にある裏口の戸は簡単に開いた。彼は入り組んだ路地を巧みに使い、並木道に出た。
そしてタクシーを拾うと、そのまま隣の区まで大通りを走った。さらに回避行動を取ったのち、路面電車でチタニー区に帰った。
その夜、彼はドミに告げた。
「ガーランドに戻る時が来た。奴らは俺を見つけたようだ。明日、地下室を元に戻す。俺がいた痕跡を完全に消すぞ」
ドミは頷いた。
「タキアの部品はどうなった」
「一応の結論は出た。玄街のコードを使った形跡がある。自動車工場で手に入れた分はガーランドに持ち帰って、専門の解析チームに渡さないとな。
お前はもう深入りするな」
「いつ発つ」
「明後日の午前中には」
ドミはトペンプーラのグラスにワインを注いだ。
「ミース・ヨース。また会おう。ヴィザーツ風にいうと、オンヴォーグ、だな」
トペンプーラも頷いた。
「その言葉を贈ってもらえるとは嬉しいものだ」
「アナザーアメリカンがこれを言っても、効くかどうか分かったものじゃないがな」
「効くとも。これは強い言霊さ。我々に力をくれる一番の言葉さ」
翌日、トペンプーラは用心を重ねて私書箱を解約しに行った。以降のジンガ・トロイス宛てのものはヴィザーツ屋敷のモトイーに配達するよう頼んだ。電信局の係員は特に驚くこともなく、淡々と手続きをした。
この日もトペンプーラは視線を感じたが、きれいに尾行をまいた。ヘット商店に戻ってからは片付けに追われた。夕食はクロードが腕を振るった。
「お嬢さんにこれを贈ろう」
トペンプーラは彼女に青い宝石を嵌めたブローチを渡した。ドミにはその意味が分かっていた。いざという時に売って役立てろということだった。
その時はすぐに来た。
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