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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」9 新しい夏の風

六の月は数えるほどしか残ってなかった。その残りで講義の足りない分を片付け、七の月の頭から再び5週間の強化訓練に入るスケジュールが言い渡された。その時には、十ヶ月訓練生も現場に入る予定だった。新参は負けるわけにはいかず、十ヶ月の方は置いて行かれるわけにはいかず、両者がライバルとなるのは必至だった。その気配は新しい風となってガーランドの若者達の間を吹き抜けた。
カレナードは心地よい緊張感を持った。
「七の月が楽しみだ」
アレクもそのようだった。
「兵站部に来るやつは、どんなコードを使いこなせるかな。おい、ヤルヴィ。訓練部署の変更届はどうだった」
ヤルヴィは浮かない顔だった。
「それが変更届が多くて、2日は待たなくちゃならないって。それにハーリはコード開発部から情報部へ志願を変更したんだ。あの才能が台無しだよ」
ミシコが言った。
「いろんな部署を早めに経験しておきたいんだろ。ハーリは自分の別の素質に気付いたんじゃないかな。キリアンとカレナードはあいかわらず航空部だな」
キリアンは「あいつがハメを外さないように見てないと」と言った。
ミシコはダンス特訓の間、キリアンの補佐ぶりには一目置いていたが、いつまでもその気分でいるのは止めろと言った。
「航空部の訓練は人のことまで気にかけるほど余裕があるのか。どうなんだ、キリアン」
「そちらの管制部も同様だろう。訓練とはいえ、一瞬の油断が事故になるんだ。俺はカレナードのことは信頼してるさ。ただ、あいつは時々むちゃするんだよ、プライベートで」
「そうなのか。夏至祭からこっちは噂の種になってベテラン達に可愛がられてるせいか、むしろ調子はいいみたいだが」
キリアンはちらりとカレナードに目をやった。
「調子こかなきゃいいんだが」
ミシコは天井を見上げた。それからキリアンに向き直った。
「人の面倒見るなら、まず自分のことをしっかりやれよ。頼むぜ」
久しぶりに施療棟へ行ったカレナードは、診察室にリリィとウマルの姿を見た。
「これから先はドクトル・リリィと私の2人が交代で君を診よう。彼女にはハードワークが控えている」
「カレナード、臨床医の彼なら私と違ったものの見方が加わるわ。玄街のコードの解釈もきっと幅が広がるはずよ」
リリィは初めてカレナードを名前で呼んだ。「お前」でも「紋章人」でもなかった。カレナードは診察室に来たときから感じていたものが何か知った。リリィは変わったのだ。
まだ頬が痩せてはいたが、棘々しさが薄まり、かわりに柔らかさが宿っていた。2人の医師は女王とカレナードの噂話にはまったく触れず、手早く、しかし丁寧に診察を終えた。ウマルは今後の診察を10日ごとに変更すると伝えた。
カレナードはふと嗅ぎ慣れない香りに気がついた。
「硫黄…ですか」
「やはり、湯が香るようだな、リリィ」
女医はカルテにペンを走らせた。
「あの温泉の香りが沁みているのよ。また行きたいわ、ウマル」
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