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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」5 過去に刺さった棘

翌日、トペンプーラはベアン市内を一巡していた。
彼はティゲル・ピグスと接触して顔を知られてしまったために髪を切り眼鏡をかけた。背中まであった彼の黒い直毛はドミ・ヘットの手できれいに刈り上げられ、さらにに茶色に染められた。
もともと丈夫な髪は短くなって元気に跳ねまくったので、そのままにした。ドゥミは付け眉毛と付け髭も用意した。
「お前のちょび髭だけじゃ、こころもとない」
こうしてトペンプーラは軽くなった頭と重くなった顔に眼鏡をかけてヘット商店を出た。どこにでもいる平凡な男の姿だった。クロードは彼の変身をおもしろがった。トペンプーラは真面目に注意した。
「クロード嬢、この家以外で私の名を呼んでは駄目だよ。変装がばれるかもしれない」
「ヨースさんは探偵業もしているの」
「ビンゴ!街中で私に会っても知らんぷりでお願いするよ、クロード嬢」
「了解よ、探偵さん」
この日は雲が多く、涼しかった。
「地図は頭に入っていますが、実際に歩いておけば、いざという時に困りませんからネ」
ベアン市は三つの川を境にして、4区に分かれていた。東からバイエン、トラウダ、レダル、チタニー。
トペンプーラの父が遺した家はチタニー区の北寄りにあった。周辺の農家が種を買いに来るのに便利な場所だった。
彼はチタニー区を南下した。商店街を抜けていくと、やがてミルタ連合領国中に支店をもつ大会社の建物が並ぶ地区があった。路面電車の駅を確かめ、チタニータ大通りに出た所で東へ折れた。
昼時とあって、通りに面した大衆食堂はどこも混雑していた。トペンプーラはその一つに入り、2階へ上がって窓際の席についた。彼は付け髭に気を配りながら、ゆっくり食べた。
この地方の定番、豆とひき肉のスープにバター付き焼きじゃがいも。刺激的なハーブが付け合せてあった。食後の茶をすすりながら、通りを観察した。
「この町も急速に都会になった。もう馬車もここまで入ってこなくなった。自動車ばかりだ」
トペンプーラは変わりゆく故郷を眺めた。
「ワタクシをミース・ヨースと呼ぶのは、ドミだけになってしまった。この名を捨ててトペンプーラになったのは、決してヨース家へのあてつけではなかったけど、結果的にそうなってしまった…。
許してください、我が父、我が母。そしてドミ・ヘット。あなたがヴィザーツの生き方を捨てることになったのも、ワタクシが巻き込んでしまったためなのに」
彼は丹田に気を集め、感傷に浸るのをやめた。
「では、路面電車を試しましょうか」
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