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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」3 スパイ&スパイ

トペンプーラはバスを待つ間、広場の市を見て回った。1人の男が声をかけてきた。
「お坊さん、カイエンヌの胡椒は辛いよ」
バジラ・ムアとは別人だった。そして、彼の言葉はトペンプーラとバジラの間で使う合言葉だった。彼は修業僧の返事を待っているようだった。トペンプーラはバジラ以外の者が合言葉を使ったので、とぼけた。
「あいにくです、胡椒は要りませんよ」
相手は構わず続けた。
「胡椒のほかに、唐辛子もあるんだけど、どうだい」
いよいよ胡散臭かった。合言葉の返事は「カイエンヌでは唐辛子の方が辛い」だ。
トペンプーラはちょっと思案する振りの一瞬で男を観察した。ベアン訛りがなく、指の関節は節くれだっていなかった。日焼けした細い指に銀の指輪が二つ光っていた。
情報部副長はカマをかけた。
「カイエンヌの唐辛子といえば名産デス。その唐辛子を拙僧に献じていただけるとは、ありがたい」
男は急に探るような目で修行僧を見た。「持ってくるから、ここで待っていてくれ」と言い残して姿を消した。そして、戻ってこなかった。
「バジラは捕らわれたものの、合言葉を少し変えて教えましたネ。転んでもタダでは起きない彼らしい。彼を救出できるものなら、なんとかしたいが」
彼は市場を通り抜けた。彼を数人の男達が追った。トペンプーラはそのうち2人を回避行動でふり切った。残り1人は公会堂の裏手で待ち受けて当身をくらわせた。気絶させたのは、例の指輪二つの男だった。彼のポケットを探った。免許証と身分証明書を確かめ、元に戻して公会堂近くの商店の倉庫に入った。
彼は素早く修行僧の服を脱いだ。背中の小さな行李を開けると、もう一つの変装パックが出てきた。それは西メイスから来た香辛料の仲買人スタイルだった。行李を裏返すと、行商人が良く使う鞄になった。本に隠した遠距離通信器の黄色のボタンを1回押した。先ほどの指輪男の身分証と運転免許証の内容をメモに書き付け、それも本の中へ隠した。
メモには『ミルタ連合領国・サンラトー出身、ティゲル・ピグス。29歳。四輪駆動車運転免許交付・バイエン交通局、第259号』と記された。
トペンプーラは立ち上がって、清拭コードを全身に使った。これで修行僧の匂いは消えた。さりげなく街道へ出て、ベアン行きのバスに乗った。
「ベアンのヴィザーツ屋敷に寄るのは賭けです。確かめなくては。ガーランドにあの信号が届いてヤッカ隊長が確認すれば、ガーランドの残りの標的をうまく捕縛するでしょう」
トペンプーラを乗せたバスはポーを離れ、街道を揺れてベアンに向かった。
バスがベアン市に到着する頃、薄暗くなった空に雲が広がり始めていた。彼はベアン市の中小商店街の一角へ向かった。仕舞い支度をする店の中に、彼の目指す場所があった。
『種と香辛料のヘット卸』と書かれた看板が彼を見下ろしていた。
「ドミ・ヘット!」
彼は店主の名を呼んだ。ドミが振り返った。
「やあ、ミース・ヨース、よく来たな。」
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