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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第7章「玄街カイエンヌ」

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第7章「玄街カイエンヌ」2 バジラ・ムアがいない

トペンプーラは最初の幸運に感謝しつつ、人の家に向かった。嬶と呼ばれた女は余計なことは言わず、僧のために新しい水を汲みに裏手の水場に行った。15歳くらいの双子の少年が父親と同じようにぺこりと頭を下げた。
トペンプーラはお辞儀を返した。
「君達、ポーの町を知ってマスか」
双子は急にやんちゃな様相を浮かべて僧に近づいた。
「3日前に夏至祭を見に行ったなァ、兄貴」
兄貴と呼ばれた少年はちらっと弟を見た。
「ポーの裏通りのええ店、教えよか。お坊さん」
「修業中は遠慮しておきます。ベアン行きのバス停留所の場所を教えて下さい」
双子はつまらなそうに顔を見合わせた。
「どこだったけなぁ…」
2人がしらばくれて髪を掻く間に母親が戻ってきた。
「なんちゅう態度や。早う牛の世話しぃ。ちょっと祭りで遊んだからゆうて、偉うなったわけやなし」
双子は出ていき、女は冷たい水を僧の水筒に入れた。
「お坊さん、ベアンへのバス停なら公会堂と助産所の広場にありますよ」
トペンプーラは歩いた。
道は一本だけで、ポーへ向かっていた。
しばらく行くと、8ヶ月前に歩いた場所に出た。そこから先は見知った行程だったが、注意を向けながら合図が用意された民家まで行った。ポーの町外れの水色の壁の民家に彼の子飼いの部下バジラ・ムアがいて、2階の窓辺に植木鉢を3個置いているはずだった。
「おかしい。彼の合図がどこにもない」
トペンプーラは素知らぬ顔で民家を通り過ぎた。
明らかに危険な兆候だった。修行僧は柳とけやきが並ぶ道を下って行った。羊がメエメエ鳴いた。ポーの町は鉱泉を引いた山手の保養所界隈と川に沿った羊毛の加工集散地で出来ていた。その間に並木のある大通りが通り抜けていて、いくつかの役所と大小の商店が並んでいた。役所の向かい側は大きな広場になっていて、その奥まった所にこの町のヴィザーツ屋敷があった。
「ポーの屋敷は『外れの屋敷』。あそこはヴィザーツのものであって、ヴィザーツのものではないですからネ。なんにせよ、この格好で寄るところではありません…」
修行僧は助産所の隣で托鉢するものだ。公会堂と助産所の間にお産を助ける精霊の祠が建っていた。
彼は小一時間ほど、そこで詠唱を続けた。安産を祈願する人がパンを差し出した。それをありがたく受け取り、胸に下げた御ひねり袋に入れていると、ベアン市からの飛行艇が到着した。誕生呪任務の交代要員が飛行艇を降りてきた。その中に顔見知りが1人いたが、彼は接触を避けた。
「バジラは何らかのトラブルがあったに違いない。ベアンのヴィザーツ屋敷も安全かどうか分かったものではありません」
彼は1年前からベアン地方を拠点に諜報活動を続けていたバジラの身を案じた。
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