挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

233/388

第6章「夏至祭」47 装甲スーツのトペンプーラ

翌日は大宮殿で新参と十ヶ月訓練生合同の訓練説明会が行われた。参謀室長ヨデラハンが直々に出向き、200人の十ヶ月訓練生の中から3分の1をガーランドに残して訓練を続けると発表した。それが何を意味するのか、ナサール・エスツェットには分かっていた。
「いよいよ玄街と本気でやりあう準備だな。ここにいる奴ら、俺を含めて、生き残らないと後の人生が楽しめないことになる」
十ヶ月訓練生の何割かは、さっそく選抜審査の説明をしっかりメモし始めた。その中にソカンリ・ジカがいた。
「チャンスだわ。私の人生を変えるのよ。カレナードにも手伝ってもらうわ!」
アーモンド形の目が強烈に光っていた。
遡ること4日前、情報部副長トペンプーラは夏至祭のメインイベントでの務めを終えるや密かに出発した。マリラとカレナードが戯れの心と己のプライドを天秤にかけて争っていた頃には、ベアンから北西60kmの荒れ地にトペンプーラのグライダーが静かに着地していた。
夏至祭の聖地から南方700kmのミルタ連合領国最南端の都市ベアンは大山嶺に続く丘陵地であり、鉱泉で有名な土地だった。方々に温泉と保養地がある一方、大山嶺の山麓で山籠もりをする信仰の拠点でもあった。
トペンプーラは装甲スーツのヘルメットを取ろうとしたが、微かな硫黄の香りに気づいて止めた。
「ああ、もう、ヒロに殺されるかと思いました。すばらしい速さですけどネ。ジェット噴射の調節がなってないですヨ。スーツとヘルメットがなければ、窒息死するところでした。さて…グライダーの隠し場所を探しますか…」
彼はゆっくり周囲を見渡した。青い月の光が皓皓と照っていた。
静かな夜で、岩山だらけの荒れ地に人の気配はなかった。たまに小動物の鳴き声がした。
「急がなくていいようですネ。休憩が必要です。その前に…」
装甲スーツの胸ポケットから、超小型遠距離通信機を取り出した。その中の小さな緑のボタンを1回だけ押した。それはナノマシン空間を音速で走る暗号を発した。
数分後には、遥か北の台地の浮き船に置いてきた受信器が、グライダーの無事とベル・チャンダルの裏切りを示すはずだった。
「これでよし」
ヘルメットは脱がずにバイザーを上げた。硫黄を含んだ蒸気は遠くから流れて来るようだった。グライダーの周りに警戒装置を張り、数回深呼吸してから小用を足すと、トペンプーラは岩の上で横になった。
「踊り比べはなかなかエキサイティングな終わり方でしたね、カレナード…。ワタクシ、決して負けてないつもりでしたが、女王の唇を奪うほどの度胸はありません。…あのあと袋叩きにあってなければいいのですが…ふふふ…」
彼にはこのあと1ヶ月間にわたる玄街との情報戦が待っていた。
「バジラ・ムアとの合言葉は『カイエンヌの胡椒は辛い』でしたネ。さあ、ひと眠りしたら、彼に会いに行かなくては!』
暑い夏が始まろうとしていた。
次回より第7章「玄街カイエンヌ」に入ります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ