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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」20 玄街(げんがい)、現る

「難しかったぜ!」
テイトが白い息を吐きながら、奨学生試験会場から出てきた。いつもより早い冬の到来だが、会場は熱気がまだ残っている。
カレナードはあとから出て来てライバルと手を合わせ健闘を称えあった。朝早くから筆記と口述試験があり、最後は運動実技と盛りだくさんな1日だった。
「まさか10km走ったあとで、剣技があるとはね。俺は型なんて3つしか知らないんだぜ。お前はどうだったんだ、カレナード。」
「僕は今日初めて剣を持ったんだ。周りを見て、それらしく振り回しただけさ。ナイフ投げは得意だけどな。」
街には調停完了祭の飾りつけが用意され、初冬の空気の中で華やいだ垂れ幕が毎日増えていった。夜には電飾が灯され、そぞろ歩く市民や観光客で賑わっていた。
「合格してるといいな、テイト。」
「そう願いたいね。おい、熱い蜂蜜入りのワイン、飲んでいこう。」
「やるか!久しぶりの贅沢!」
「カレナード、おごれよ。お前、フロリヤさんに余分をもらってるだろ。」
急にカレナードが神妙になり、暗くなりかけた路地のひとつへ顎をしゃくった。そちらに注意を向けたテイトも真顔になった。
「奴らがいる。見るなよ、テイト。」
2人は出来るだけ大通りの賑やかな所を選んで歩いた。路地の奥にいたのは玄街のヴィザーツ達だ。彼らはガーランドのそれとは正反対で、ガーランド・ヴィザーツが守護者なら、玄街は災いだった。たいてい5人ほどが目立たないように潜んでいる。めったに出会うことはないが、彼らは危険な存在だった。調停完了祭で浮かれている街では気を付けねばならない。彼らは祭りに乗じて失踪者や死人を出すと言われていた。黒い外套と黒い帽子を身に付け、絶対に陽の当たる場所と人混みには現れない。ゆえに用心深いアナザーアメリカンは彼らを避ける術を知っていた。さっきのような暗い路地にむやみに踏み込まないことだ。
「あの広場の店なら大丈夫だ。」
カレナードはテイトを引っ張って、ワインの屋台に入った。屋台の女将が若造には早いわよと、2人をからかったが、すぐに注文の品をテーブルに置いた。
「カレナードは目がいいな。奴らをすぐに見つけ出せる。」
「視線を感じたんだ。気味がわるい。」
ワインの熱さにもかかわらず、彼は身震いした。テイトは玄街のことをもう忘れていた。
「完了祭の最終日には通知があるよなぁ。合格したら俺は監督生を辞めて、法律事務所の寮に行くよ。大学の授業と仕事の両立にはそのほうが便利だ。お前はどうする、カレナード。」
「シェナンディ氏が工場宿舎の部屋をくれるんだ。大学は工科をやる。それと自然科学全般も。」
「出資寮の出身者はけっこう馬鹿にされるぜ。今日は農家の息子が突っかかってきた。親が生きてるからって偉いのかね。」
カレナードは流行りの推理小説の探偵を演じ、テイトの愚痴を茶化した。
「テイト君、そういうヤツは落ちるんだよ。」
「…ったく、お前ときたら!怒る気が失せたよ!」
「笑い飛ばせよ。でなきゃ、やってられない。」
カレナードは友人と肩を叩きあった。その間も時々玄街の黒い影が追って来ないか、四方に視線を投げかけた。彼らをこれほど身近に感じたことはなかったのだ。
それから5日後、完了祭の幕が切って落とされた。
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