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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」42 マヤルカとソカンリと

「知っています、マヤルカお嬢さん」
それは、かつて2人がオルシニバレの出資寮生と医学生だった頃の声だった。マヤルカの視線が上がって、カレナードを真っ直ぐ見た。
「お嬢さんと呼ばないで。私達はあの頃には戻れない。二度と戻ることはないわ」
赤い髪を結い上げた顔は、どこか少年のように見えた。少年どころか、青年の大人っぽささえ宿っていた。カレナードの胸が豊かになった分、マヤルカも確実に変わったのだ。
「僕が悪かった。祭りで浮かれていたんだ」
「懲りていないのね。オルシニバレの調停完了祭で浮かれた結果を忘れてしまったの」
カレナードは何も言えなかった。
「こんな体になってしまったのは、あなたと私だけなのよ。アナザーアメリカでたった2人きりなの。あなたが逃げたらどうするか、私は言ったわ」
「覚えています。僕を殺すと…」
「おやおや!これは物騒な!」
2人の話に割って入ったのは道化だった。今日の出番はまだらしく、楽屋の隅に転がっていたのだ。マヤルカは睨みつけた。
「ボケ・フール。邪魔すると蹴り飛ばすわよ」
「そう言わずに小生も混ぜてくださいな。こちらの色男には分の悪い話でありますな」
マヤルカはもう一度にらんだ。
「クソ・フール。調子に乗らないでちょうだい」
「良いことを教えてあげましょうか、マヤルカ嬢。玄街に体を侵された人間は他にもいましてよ。うふふっ」
道化はさも愉快と言わんばかりに目を細めた。
2人はギクッとした。マヤルカは一筋の希望を掴んだかと震えたが、カレナードは彼女の腕を取って数歩下がり、小声で言った。
「彼はボンゾ教官です」
瞬時に道化の脚が2人を襲った。カレナードはマヤルカを巻き込まないように前へ出た。体術の基本型で、なんとか道化の脚を止めた。
「やるじゃないですか、紋章人。ふふ、口は災いの元」
「申し訳ありません。失礼します、ワイズ・フール」
カレナードはマヤルカを引っ張って、外に出た。
「何なの、カレナード。フールに話を聞きたいわ。それにボンゾ教官って…」
「僕の勘違いです。忘れて下さい。フールの話は僕達を惑わすだけですよ」
「腕でよく止めたわね…痛いでしょう。あの脚、ものすごい速さだったわ」
マヤルカはカレナードの袖をまくった。
「痣になるかも。私をかばったのでしょ」
「医療コードが使えるかい」
「だめよ、ドクトル・アントニオに止められているの」
道化が舞台の下から首を出して言った。
「もう一撃お見舞いするぞ、この野郎」
2人はあわてて逃げ出した。走りながらマヤルカが言った。
「明後日の午後、2人だけで会いましょう。2人だけになりたい」
「テント撤収のあとで。午後2時に女子テント跡に迎えに行くよ」
その夜、カレナードがソカンリ・ジカを探しあてたのは仕事を終えてからだった。ソカンリはガーランド出航後の休日に改めてデートをしましょう、と言った。彼女の切れ長の目もマヤルカと同様に、何か言いたげだった。
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