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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」37 青い夜が降りてくる

ようやく静かになったテントの内陣では、マリラは自分が投げたクッションの山に埋もれていた。カレナードは少し離れた内陣の端の支柱に寄り掛かっていた。
どちらも疲れ果てていた。マリラが何か言ったようだった。カレナードは何とか立って、マリラに近づいた。女王の髪は乱れ、息は苦しそうだった。
「カレナード、動けるか…。水が欲しい」
ギャレーからグラスと水差しを運び、マリラに差し出した。マリラが一杯目の水を飲み干す間にカレナードは鏡台からブラシとリボンを探し出した。マリラの所へ戻ると、彼女はカレナードにグラスを差し出して、水を勧めた。
「それはマリラさまのための水です。僕はいただけません」
「固いことを言うな。そなたにも必要だ」
カレナードは水を口に含んだ。
「これ…ミルタのベアン地方の水だ」
「そなた…ベアンにいたことがあるのか」
「子供の頃、半年ほど。父の仕事で滞在していました」
「そうか…。そなた自身のことを聞きそびれていた」
マリラは髪にブラシが当たるのを感じた。
「…何をしている…」
「髪を整えます。見るに堪えないので…」
「そんなにひどい有様か…」
マリラは笑うことさえしなかった。カレナードに髪を梳かれるままになり、顔や手を温かいタオルで拭くのを許した。カレナードはマリラの髪をざっくりと三つ編みにし、水色のリボンで結んだ。肩にマリラを担いで寝台に向かおうとした。が、彼にも力は残ってなかった。
「女官達を呼びます」
「彼女達にこれを見せたくない…。第一、近くにはジーナくらいしかおらぬ」
「では、ここにいてください」
カレナードは寝台から持ってきた毛布と予備の毛皮を敷いた。座卓を置き直し、そこに香を焚き、燭台を灯した。マリラを毛布の上に横たえ、上から祭り衣装のマントを掛けた。
「このマントの文様がきっと添い伏しの効果を上げてくれます」
「添い伏し…」
「オルシニバレの民間療法です。隣に眠る添い寝人から気を移して回復させるものです。本当は呪術師が取り持つものですが、今日は僕が呪術師と添い寝人の一人二役で行きます。詠唱は省略形ですが」
「ちょっと待て。そなたの気を私に移すのか、私の気をそなたに移すのか」
「マリラさまはたいへんお疲れです。疲労困憊した方の気はいただきません」
「それは…効くのか…」
「効きますとも」
「そなたもここで眠るのだな」
「はい…女官の皆さまが戻るまでは、ずっと傍におります」
「カレナード」
「はい」
「手を繋いでいても良いか」
「…どうぞ」
マリラは祭礼用のマントを口元まで寄せた。
「カレナード」
「はい」
「今夜はすまなかった…」
カレナードはマリラの手をそっと握り、詠唱を始めた。
『青い夜が降りてくる、玉蜀黍の畑に、冬小麦の畑に。
畏れの夜が降りてくる、公会堂の屋根に、みどり児の屋根に』
カレナードは静かに眠りに落ちていくマリラを見詰めた。
カレナードは女王がますます分からなくなった。マリラは不可解な女そのものだった。
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