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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」33 マリラ、重畳といいつつ

「踊り比べにこの曲を入れたのは、マリラさまですか」
「そうだと思う。いきさつは覚えてないが」
「海の向こうやサージ・ウォールの外側にも、人がいるのですか」
女王はクッションに座り、残っていたグラスの中身を飲み干した。
「正確には『いた』のだ。今もいるかどうかは分からぬ。それを知る手立てはない。2500年の間、ウォールを飛び越えて来る者はいなかった」
「故郷をご覧になりたいのでは…ありませんか」
「ガーランドも飛行艇もトール・スピリッツもウォールを越える性能を持たぬ。故郷を見るのは不可能だ」
マリラは遠くを見ているようだった。
「私の知っているEUは滅んだであろう。アナザーアメリカが私の居場所だ」
マリラはいきなりカレナードの背中をつついた。
「何でしょうか」
「春分の怪我はどうなのか。確かこの辺だろう」
「完治しています。ドクトル・リリィが保障してくれます」
「傷痕が残ったのではないか。見せなさい」
「だめです。新参は祭り衣装を脱いではなりません」
「そんな規則を誰がでっち上げたのかな」
マリラはふふふと笑った。
カレナードの背中を嫌な予感が走った。
「胸を見せよと言っているのではない。傷痕を確かめたいだけだ」
ベル・チャンダルの教えがカレナードの頭をかすめた。彼は飾り帯を外し、上衣をたくし上げて背中をマリラに向けた。マリラは見えないと言った。
「そなた、帯で胸を巻いてよくも踊れたものだな。外すぞ」
マリラの指は帯を取り去り、さらにビスチェの前にある留め金をも取った。早業だった。
カレナードは祭り衣装で胸を隠した。
「マ、マイヨール先生がビスチェをくれたのです」
「そうか、それは重畳…。傷はやはり痣になったか。申し訳ないことをした…」
言葉とは逆に、マリラの手の平が背中をゆっくり這っていった。指は彼の衣装をさらにめくり上げ、首筋を撫でた。明らかに官能的な動きだった。踊り比べで得た対等な関係はもろくも崩れようとしていた。女王は紋章人を女の香りで包んだ。
カレナードは背後のマリラを止めたかったが、方法を探し当てられずにいた。
「ベル・チャンダル!逆らわずに逆らう方法はないのですか!僕に知恵を授けてくださいよ!」
頭が空回りするうちに、マリラの唇が傷痕に触れ、手は胸に回り込んだ。
「うわあああああっ。」
カレナードは叫んでしまった。その場を飛び退き、咄嗟に拾った飾り帯で衣装を元通りに腰で縛った。だが、ビスチェと帯はマリラの足元に落ちていた。
テントの外ではジーナがアライアに要注意のサインを送った。
「ほら、ままごとどころではなくなったわ。もう戦争よ」
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