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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」32 数千年前の歌

女官長は警備隊の予備隊員を呼び出した。その中にピード・パスリがいた。ドルジンも一緒に来たが、2人は艦長の酒蔵に寄っていたため、少々酒臭かった。さらにドルジンは良い具合に酔っていた。
「それでぇ我々はぁ待機しておればよろしいろでぇすね」
「ドルジン殿、ベル・チャンダル女官の指示で動いてくださいませ。それまではお休みいただいて構いません。ピード殿も」
ジーナはベルの居るテントからドルジンのいびきが聞こえても、慌てなかった。
「警備隊ですもの。号令がかかれば飛び起きるわ」
しばらくして、マリラの歌声が外まで聞こえてきた。それは第12曲の旋律だった。カレナードのつたないリュートの伴奏だった。古い言語で歌われているため、ジーナ達には意味が分からなかったが、アライアは安堵していた。
「マリラさまが歌われるなんて…よほどご機嫌がいいのですわ」
「アライア、まだ分からないの。カレナードが居る時のマリラさまは別人なのよ」
カレナードも歌の意味を知らなかった。シェナンディ家の図書室で読んだ古語の詩によく似た言葉があったと思った。それは恋を意味していた。
彼は旋律を口ずさむマリラが手招きするのを見た。そこで膝の上のリュートを座卓に置き、立ち上がった。2人は再びゆっくりと踊った。もう競う必要がなかった。ちょうど良いくらいに疲れてもいた。カレナードは踊りをやめて、マリラに訊いた。
「第12曲に歌があるのを初めて知りました。何を歌っているのですか」
マリラはカレナードの隣に立ったまま、応えた。
「アナザーアメリカ以前の歌だ。『恋は野の鳥、意のままにならぬ気まぐれ、捕えようとする骨折り損、私に触れると怪我をする…』…古い、昔の歌なのだよ」
「第12曲がお気に入りですね」
「ああ、私がアナザーアメリカに来る前の遠い記憶にある歌だ。忘れることが出来ぬ…」
カレナードはマリラの途方もない旅路に改めて驚き、アナザーアメリカ創生前に人の歴史があるのを知った。
「あなたの故郷はどこなのですか」
マリラは故郷という言葉に少々戸惑ったようだった。
「…こ、故郷か…。私にそれを尋ねた者はいなかった。私自身も思い出すのを忘れていた。生まれたのは海の向こうだ」
カレナードは目を見張った。
「サージ・ウォールの向こう側ですか」
「そうだ、アナザーアメリカの東海岸、北メイスから海とサージ・ウォールを越えて、7000kmの向こう、遠い大陸に私の故郷がある。そこで、この曲は数千年歌い継がれてきた」
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