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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」30 夏至祭の夜道

彼はテントを出て、なんとか清拭コードを使った。子羊を焼いた香りは薄くなった。
まだ賑わっている舞台を避けて、緩い斜面を登って行った。
昼間にはなかった簡易テントが多数出現していた。その一つのそばを歩くと、音を立てるトラップが鳴った。テントの中から下着姿のケニッヒ・ヤオセルが改造発煙筒を片手に飛び出した。
「来やがったな、ボケ・フール!これでも喰ら…おい、お前…」
「すみません、ワイズ・フールではありません」
恋人達の逢瀬をぶち壊しに来る道化に間違えられたのだった。
「ああ、無礼者の優勝者か。この辺には来ない方がいいぞ。フールに恨みのあるヤツは俺だけじゃない」
「そうします、ケニッヒさん」
カレナードは簡易テント群を抜けて、女王の御殿テントまで来た。テントの前に見覚えのある女がいた。イアカ・バルツァだった。彼女はわざと澄まして言った。
「何の御用でしょう、紋章人殿」
「マリラさまにお取次ぎください。先ほどの無礼を詫びに来ました」
「ここでお待ちください。女官長に許可をいただきます」
イアカが垂れ幕を開けようとしたところ、内側からアライアが出てきた。
「あら、カレナード。来たのね。さっきはいろいろと凄いものを見せてもらったわ」
「恐縮です、アライアさん」
この気さくなやりとりにイアカはむっとしたようだった。アライアはカレナードを招き入れた。取り残されたイアカはぶつぶつ言った。
「んもう、女官候補生は夏至祭が初仕事なのよ!取次くらい、きちんとやらせなさい。紋章人のヤツ、気が利かないったら!」
カレナードは柔らかい室内靴を履いた。内部を二重に仕切った外側回廊を少し進んだ所で、女官候補生が何人か控えていた。先ほどイアカと共に彼の唇を奪った女達だった。
アライアが先導して内陣に入った。
「マリラさま、カレナード・レブラントが参りました」
内陣は広々としていた。柔らかい灯火と緑を基調とした垂れ幕で、まるで草原にいるようだった。所々に座卓とクッションが置かれていた。ジーナ女官長もベル・チャンダルも他の女官達も、祭り衣装に女官用の長いジレを羽織っていた。穏やかなムードだった。
マリラは浅葱色の部屋着の上に白い兎毛のボレロを着ていた。髪をほどき、ローズピンクの室内履きが部屋着の裾から出ていた。彼女は床に置いたクッションに座り、カレナードにもクッションをすすめた。
彼は座る前に無礼を詫びた。マリラは鷹揚だった。
「言ったであろう、あれは事故だと。そなたは目測を誤ったのだ。最後の曲をあのように踊っては、誰でも朦朧となろう」
カレナードは夏至祭に感謝した。祭りゆえに許されているのがひしひしと伝わった。マリラは言った。
「せっかくの機会だ。ゆっくりしていきなさい、カレナード。ぜひ私にもてなしをさせておくれ」
女官長が女官候補生に飲み物の指示を出そうとした時だった。女王の命が下った。
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