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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」17 誕生呪(たんじょうじゅ)

カレナードはその呪文に聞き覚えがあった。
記憶をたどっている暇はなく、産室から生まれたばかりのみどり児が運ばれてヴィザーツと見届け人の間の台上に置かれた。みどり児は布に包まれ、弱々しくもがいていた。中年のヴィザーツが静かに布を外し、みどり児の周りに指をさしてから、誕生呪を口にした。
「dicourvertdèeupettir.」
フロリヤとカレナードは耳を傾けた。
発声に含まれるかすかな破裂音や無声化した摩擦音まで聴き取ろうと全神経を集中した。生誕呪とみどり児の泣き声以外は沈黙した場所で、カレナードはフロリヤの危険な遊びに付き合っているのだ。
誕生呪を受けたみどり児は、大きく息を吸い元気に泣き始めた。安心したかのような泣き声だった。見届け人達はその変化に生の喜びと感動を覚えた。カレナードも自然と頬が緩み、笑みがこぼれた。ヴィザーツ達の表情もほころんでいるように見えた。考証役場の役人が日付と時刻を出生証明に書き加え、サインをした。一同は礼を交してそれぞれの控室に戻った。
その日は午後の4時間で7回の生誕呪を聞いた。
カレナードは考えた。彼らは交代で朝も夜もここにいるのだろう。彼らに家族はあるのだろうか。ヴィザーツ屋敷には、子供がいるのだろうか。彼らは自分たちの子供にも生誕呪を与えるのだろうか。
帰り際にアネッサにそれとなく挨拶した。
「添い伏しの効果はありましたか。」
「上々よ、カレナードお嬢さん。また頼めるかしら。」
「しばらく添い伏しは休業いたします。」
アネッサは艶やかに微笑した。
「賢明ね。そのドレス、よく似合っていてよ。」
「恐れ入ります。」
「赤ん坊って見飽きないわ。あなたも産めたらいいのに。」
アネッサの淑女としてはスレスレの冗談にフロリヤは吹き出すのをこらえ、カレナードは慌て車に乗り込んだ。
雨あがりの空に夕陽の色が美しかった。
カレナードはようやくヴィザーツの呪文を胸の中で反芻してみた。最初に老女が唱えた呪文は、かつてマリラが幼い彼を飛行艇に乗せる前に唱えたものだった。しかし、それをフロリヤに言うわけにはいかない。言えば女王に会ったことが知れてしまう。
そして、これ以上彼女を禁忌に深入りさせたくなかった。
フロリヤは胸に下げた紙入れからメモ用紙を出して、生誕呪の分析を書き付けているようだ。彼女は共犯者にもメモを渡し、「発音記号で書いて」と言った。カレナードはしぶしぶ書いてメモを返した。
「僕はお嬢さんが禁忌破りの罪で追放されるところなんか見たくないんです。」
声を殺して言った。
「気をつけるわ」と返事するフロリヤだが、返されたメモを熱心に読んでいる。彼女は感嘆した。
「素晴らしいわ。私の分析とほぼ一緒よ。破裂音が二つ多いわね。これはもう一度確かめないと。
それから、あの仕草についての考察!呪文の効力を及ぼす場所を決めている可能性があるというのね。」
カレナードは後悔した。彼女のいらぬ探究の炎に油を注いだようなものだ。彼はそっと訊ねた。
「なぜ、こんなことを始めたのです。」
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