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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」12 夏至祭の始まり

春分の夜に見た大いなる存在だった。やがてマリラが銀色に輝く冠をいただき、太陽と月と星を象ったマントを長く引いて現れた。
静かに祭りは始まった。静寂の中でマリラと女官達が香炉に火を入れ、アナザーアメリカと大いなる闇をつなぐ空間となるための香りが満ちていった。マリラの詠唱が崖に向かって放たれると、それは天然の反響板でもある崖を伝って斜面全体に響いた。古参の乗組員達が詠唱に加わり、やがて訓練生達も歴史学の教師から学んだ詩句を詠った。
「青い夜が降りてくる、玉蜀黍の畑に、冬小麦の畑に。
畏れの夜が降りてくる、公会堂の屋根に、みどり児の屋根に」
それはオルシニバレで添い伏しをする時に詠われる文句と同じだった。
詠唱礼はそのまま大霊祭に移った。
大霊祭は大地の精霊に扮して舞踏することで先祖の霊を讃え、穢れを払い、新たなパワーを宿す祝祭だ。
ヴィザーツ達は背中から仮面を取って着けた。ケープを羽織ると、もう誰が誰だかよく分からない。5000人近くのヴィザーツは、真昼の地上に揺らめく精霊となった。
舞台の周辺から低い太鼓の音が鳴りだした。軍楽団の太鼓の他に、大きな輪に皮を張っただけの楽器がぶーんと奇妙な音を添えた。精霊達はそれに酔った。単調なリズムの繰り返しが重なり、皆は足踏みを始めた。合わせて先ほどの詠唱が低く重なった。
太鼓を持ったヴィザーツが群衆の中へ分け入った。それを合図にヴィザーツ達は隣の者と手をつなぎ、歩いた。
訓練生にとっては初めての体験だった。
大勢のヴィザーツが波のように大きな輪を作り、右や左に回りながら詠唱礼によく似た詩句を詠っていたが、それはすぐに喚声へと変わった。仮面と太鼓と詠唱が彼らを支配していた。
訓練生達もその中に巻き込まれ、誰とも分からぬ仮面のヴィザーツと手をつないで走り叫んだ。
カレナードとキリアンも離ればなれになった。彼らは雪崩をうって舞台へと駆け降りる一団の中にいた。集団の力は凄まじく、舞台を蹂躙したかと思うと再び斜面を駆け上った。熱狂が渦巻いた。
太鼓の音が止んだとき、ヴィザーツ達は誰彼ともなく抱擁を交わし、それぞれのテントに帰っていった。
キリアンの胸の内はほこほこ熱かった。彼は大霊祭の音が止んだ時、息をつくためにうっかり仮面を外した。ちょうど見知らぬ相手と抱き合って、それがしっとりした女の体だったこともあり、間抜けなことをしたのだ。相手も仮面を半ばずらせた。
マリラだった。彼女は微笑んで言った。
「もう1人のカレナードのパートナーよ」
何の咎めもないのが、祭りのいいところだった。2人は軽く礼をして立ち去った。それを思い出していたのだ。マリラの一言はキリアンにとって福音だった。
彼はゲネプロ後のカレナードとマリラの間の隙に入れたと思った。
後ろからV班の連中が追い付いた。
「うっは!キリアンがにやけてるぞ。いい思いしてきたな、こいつ」
そう言うシャルもいい思いをしたらしく、思い切り鼻の下が長かった。彼らは短い休憩の間、大霊祭の余韻の中にいた。
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