挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

194/388

第6章「夏至祭」8 10ヶ月訓練生ソカンリ・ジカ

「さすがガーランドの精鋭ばかり。余裕綽々だ」
キリアンは感動的に言った。
カレナードは「君も十分余裕で言ってるよ」と言った。
「そうかな。僕からだとお前の方が余裕たっぷりに見えるさ」
「うん、自分でもよくやったと思う。艦長の厳しい要求に負けなかったことだけは誇れるさ。うん、死ぬかと思った」
「何だ、それは」
2人は顔を見合わせると噴きだした。
「よくも言ったな、カレナード。僕だって死ぬかと思ったさ。」
「あはははは。踊り比べが終わったらさ、焼いた厚切りチーズを食べたいな」
「僕はベーコンをカリカリに焼いたヤツを!」
後ろから声がした。
「もう食い物の話か、お2人さん。今日の夕食パックは死ぬほど美味い豆のパスタだ」
総合施設部の兵站部代表、ケニッヒ・ヤオセルが立っていた。豆のパスタと聞いて、がっかりしている新参生をおもしろそうに見ていた。
「嘘だよ。冷たいパスタなんか食ってみろ、便所に列が出来かねないぞ」
キリアンがホッとした声で言った。
「新参はまだ保温コードの使用許可が出ないんですよ」
「そうだな。テントや食糧車が爆発したら祭どころじゃないな。安心しろ、今夜は肉の赤カブ煮込みさ。何の肉かは期待するなよ」
彼らは人混みが移動する流れに乗って、ゴンドラの昇降口に近づいた。ガーランドは限りなく地上に降りていて、一部は台地に接触していた。エンジン音が通低音のようにずっと聞こえていた。
昇降口はいつになく大きく開かれていて、すでに設営に取り掛かった大きな舞台が見えた。舞台は一方だけが崖に面していて、崖との間に細長い軍楽団用のボックスがあった。他の三方はごく緩い傾斜の段がついていた。そのうちの一つはやがてなだらかに湖に向けて下っていく広大な牧草地へ続いていた。ヴィザーツ達の宿泊テントは緩い傾斜地をもっと上がった所に並んでいた。ガーランドはその真上に停泊しているのだ。
横で1人の少女が感嘆の声を上げていた。
「ああ、明日はあの舞台で踊るわ」
十ヶ月訓練生代表の一人、ソカンリ・ジカだった。彼女はカレナード達に気が付いた。
「なんだか夢みたい。故郷のヴィザーツ屋敷の夏至祭とは比べ物にならないわ。今年限りだけど、ガーランドに来て良かった!」
ケニッヒが未だ初々しい感じのするソカンリに訊いた。
「君の故郷を当ててみよう。言葉の感じから判断して、ミセンキッタ領国東部の丘陵地帯だ」
「どうして分かるの、ケニッヒさん」
ケニッヒは奥の手を明かした。
「言葉で分かるというのは建前でね。ジカ家といえば、ミセンキッタのキタ地方の一族だ。俺はキタ出身の知り合いに教えてもらったんだが、君のように涼しげな眼をした美人がいっぱいいるんだろう」
ソカンリは切れ長の目を伏せて、男のお世辞に落ち着き払って言った。
「明日の抽選では、あなたと当たりたくないわ」
軽くからかったつもりのケニッヒは彼女の気の強さに面食らったようだった。
「失敬失敬。悪く思わないでくれ。君が可愛かったから、つい口が滑ったんだ」
「私、そういうの嫌なんです」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ