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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第6章「夏至祭」

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第6章「夏至祭」6 祭りに臨んで(リリィとウマル)

「ウマル、それで私にはレンダウィルスの抗体が出来ているのでしょうね」
「ええ。でも抗体がいつまで有効なのか分からない。1ヶ月なのか、1年なのか。今後はカレナードと遊ぶのはやめておきなさい。お互いによくないと思うよ、私は」
「個人的な問題に突っ込まないでちょうだい、ウマル」
林から展望回廊に抜けると、北の大地の風が吹いてきた。ウマルは羽織っていたマントをリリィに掛けた。
「いらないわ。私はコートを着ているんだから」
「ダメだ。君は大事なヴィザーツだ。病み上がりの体に無理をさせるのではないよ」
「いらないったら」
彼女はウマルの白いマントを払いのけようとした。
「この件に関して、主治医の私の指示に従ってもらおう。言うことを聞かない場合、下船は許可しない。夏至祭当日も天候によってはテントにいてもらうよ」
リリィはしばらくウマルの言葉を噛みしめていた。やがて納得したのか「分かったわ」と言った。
ウマルのマントは軽くて快適だった。リリィはぽつりと言った。
「私の代わりにカレナードと彼の標本を診てくれて…助かったわ…」
ウマルは振り返ると彼女の両肩に手を置いた。
「君がお礼を言うとは。青天の霹靂だ」
「私はそれほど傲慢ではなくてよ。ウマル。カレナードとのことは反省だってしている…」
「ほお、殊勝な心がけだ」
「それは嫌味なの」
「違うな、本心だ」
リリィは眉をしかめた。
「あなたの本心は分かりにくいわ」
「そうか、仕方ないな、今まで君は施療棟の研究セクションに籠りきり、私は臨床セクションに籠りきりだったからな。これも何かの縁だ。今回は君の治療で貴重な臨床例に携わることが出来た」
リリィは自嘲を含んだ声で言った。
「なにそれ。私の免疫不全気味なデータのことなの。私は標本材料ではないわよ」
「ふうん、カレナードを材料扱いしたのはどこの誰だ」
「あなたは勘違いしているわ。彼に対する私の…その…本心はそうではないわ」
「では、何だ」
リリィのまだ血色の良くない頬がピクッと動いた。
「言えない。彼と私の問題だもの」
ウマルはそれ以上追究しなかった。彼はリリィの腕を取って組んだ。
最初は突っぱねようとしたリリィが疲れて素直に自分にもたれかかるのを受け止めた。2人はゆっくり施療棟へと戻った。
ジーナ女官長は女王の壮麗なテントが急ピッチで仕上がるのを満足気に見ていた。あとは荷ほどきの順序を間違えなければいいのだ。運ばれてきた20個ほどのコンテナにはしつらえ用の品々が詰め込まれていた。
「マリラさまが心置きなく夏至祭の務めを果たされますように」
強化訓練期間中、マリラは体力も気力も充実していた。玄街の問題がそうさせているのは確かだ。
「紋章人に対してもそうであられますように」
彼女は心配するのを止めた。女官長は切り替えが早いのだ。
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