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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」32 霊感は北に飛ぶ

くすぶる燠のようにずっと彼を支配していた塊は静かに消えさっていた。
彼は胸に手を当てた。
「僕は何に怒っていたのだろう」
いつの間にか灰色の雲がピンクと青みを帯びて、山の端からも光は失せつつあった。
急に憑き物が落ちたような気分だった。
広い空の下で、彼はふと父を感じた。彼は問いかけるように言葉を発した。
「父さん、あなたの息子は一時の気の迷いで自分を見失う愚か者です。あなたの目にはどう映るでしょう。
同じ男として、嘆きますか。それとも、若気の至りだと許しますか」
父の返事ははっきりしたものではなかったが、「あるがままであれ」と言っているように思えた。
少なくとも、今のカレナードを非難する気配はなかった。
通路には誰もいなかった。
彼は父の魂に、あるいは自分自身に向かって語りかけた。
「僕はリンザ・レクトーが言ったとおり男女のことに鈍感だ。ドクトル・リリィがあのようになるまで彼女を敵のように思い込んでいた。きっとマリラさまのことも分かってない。
もしかしたら誤解したままになっているのかもしれないな…。
父さんは…母さんと出会って、どんなふうに分かりあったのだろう。聞いておけばよかった…。
キリアンは僕をバカだと叱ってくれた。ドクトル・ウマルは励ましてくれた。艦長とトペンプーラさんもだ…」
カレナードは立ち上がった。穏やかな心地が嬉しかった。
彼は自分を縛っていた辛い感情から解放された。辛さを生んだのは自分のプライドと強情ゆえと半ば知っていた。それらは別のところで活かすべきだったのだ。
彼は軽やかに駆けていったマヤルカのようでありたかった。
「僕はお嬢さんにはなれないけど、見習うことは出来る」
彼はそれまでと違う足取りで歩き始めた。
その夜、キリアンはカレナードの肩から力が抜けて、彼が練習中も余裕で周囲を見られるようになったのを歓迎した。
その調子で女王とのリハーサルもやってのけてくれ、と言った。
「ああ。その時はキリアンも一緒に来てくれないか。君にはマリラさまの癖を盗んで欲しいんだ」
「こうなったら、やれるだけやってやるさ。僕は女王マリラだ」
キリアンは顎を上げて優雅に首を傾けた。
それをエーリフがおもしろそうに注視していた。
ナサールが冷えた瓶を抱えてやって来た。
「艦長殿、今日はミセンキッタ北部名産の黒ビールです!」
艦長が瓶の栓を抜くのを見ながらハーリとヤルヴィは言った。
「艦長に休肝日はないのかな。ハーリ」
「あの人の血はきっとアルコールで出来ているんだよ。ヤルヴィ」
ガーランドは初夏の夜を賑やかに北に向かっていた。
第5章はここで終わります。次回から第6章「夏至祭」に入ります。
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