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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」31 鎮火

ウマルはアントニオの老いた肩を抱いた。
「心配ありません。病状は落ち着いてきました。彼女は施療棟の宝です。ですから、アントニオ、あなたまで病気にならないでください。あとで解析用標本のチェックを一緒にしてください。私だけでは手が回らない」
「いいとも。リリィは本当によくあれだけの仕事をやってきたものだ。若さかね、ウマル」
カレナードは2人の話から、リリィが激務の間にも玄街コードを解くことに没頭していたのを知った。
「僕はドクトル・リリィのことを何も知らなかった…。いえ、知ろうともしませんでした。僕が彼女と喧嘩したために…」
アントニオは「まぁ、喧嘩両成敗じゃ。お前さんも元に戻るのが遅れるのを覚悟しなさい」とたしなめた。
ウマルが言った。
「彼女が寝込んでいると、施療部は静かすぎる」
「そうだろう、リリィは確かに高慢ちきじゃが、根は悪い女ではない」
アントニオに笑顔が戻ってきた。
そこにマヤルカが通りかかった。彼女は施療部の見習い看護師の服を着ていた。薄いペパーミントグリーンの制帽から赤毛がはみ出すのを直しながら、やって来た。
「私、施療部の医療材料セクションに配属されたの。嬉しいわ、医療コードをたくさん勉強できるんだもの。ドクトル・アントニオ、標本用の薬草を取ってきました」
「よしよし」
アントニオは赤毛の娘に言った。
「柔らかい葉に清拭コードをかける時は注意するんだ。分かるかな」
「はい。コードを弱めの長時間にして水分を残さないようにします。カレナード、練習に遅れないでね」
マヤルカは背負った薬草入れを揺らして、建物の一つに消えていった。
「教え甲斐のある娘だのう、ウマル」
「そうですね、やる気があれば、ヴィザーツもアナザーアメリカンもそう変わりない。そうだろう、紋章人」
カレナードは頷いた。ウマルが春分の夜と同じように励ましているのが分かった。
小武闘室へ向かうエレベーターから、夕暮れのアナザーアメリカの空が見えた。
夏至を間近に控えて、日没はゆっくりと進んでいた。
彼はエレベーターを途中で降り、第4甲板を見下ろす通路に座って、空の彼方に目をやった。
東方は青く闇の前触れに染まり、北方は紫とオレンジの雲が色を薄くしつつ渦巻き、西方は大山嶺の稜線が白金のように輝いていた。アナザーアメリカの美しい光景だった。
その中でポルトバスクからの1ヶ月を振り返っていた。四の月に劣らないくらい、激しく揺れた1ヶ月を。
大山嶺から雲が流れて、風と共にガーランドの上空に広がり、太陽が沈む瞬間の光が幻のように煌めいた。風が通り過ぎた。風は心地よく湿り気があった。
突然カレナードは自分の怒りの火が消えているのを感じた。
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