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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」30 籠の鳥のような

施療棟はいつもと空気が違っていた。リリィの診察室にはウマル・バハがいて、リリィの大切な大量の解析用標本のチェックをしているところだった。
「久しぶりだな、紋章人。しばらく私が君を担当することになった。よろしく」
ウマルは握手を求めてきた。
「春分の夜には手当をしていただき、ありがとうございました。ドクトル・リリィは…どうしたのですか」
「彼女は病気だ。何らかの感染症に違いないのだが、一時は危なかったんだ」
カレナードは感染症と聞いて、嫌な予感がした。
「いつからです」
「一週間ほど前だ。彼女は唇に怪我をして、そこから免疫のないものが入り込んだらしい。あるいは地上の細菌かもしれない」
「地上の…」
「リリィは特異体質だ。ガーランドを長く降りていられないのはそのせいだよ。特に地上の菌類とウィルスにやられやすい。免疫不全とまではいわないが、彼女とアントニオ爺さんの悩みの種さ」
「ドクトル・ウマル、それは…僕のせいです。彼女に怪我を負わせたのは僕です」
ウマルの日に焼けた顔が呆れていた。
「唇の怪我か。何をやっているのかな、君もリリィも」
彼は探るように少年を見た。
「それなら、今日は君が何のウィルス保持者で何の常在菌を持っているか、調べてみよう。リリィに悪さをしている原因が特定できれば、治療しやすくなるかもしれん」
「彼女に会えますか。怪我のことを謝りたいのです」
「まだ熱が高い。様子を聞いてからだな」
ウマルはさっさと診察を終わらせ、カレナードの皮膚と口中から標本を取りまくった。そのあとリリィの病室に案内した。
「カーテンの外から5分だけだ。カーテンに触るなよ、殺菌用のコードがビリッと来るぞ」
そう注意して、彼は廊下に出た。
カレナードは薄いカーテンの向こうに横たわるリリィを見た。青白い皮膚の中に落ちくぼんだ眼窩、唇の端に赤黒く腫れた傷痕があった。
「ドクトル・リリィ。先日のことを謝りたくて来ました。噛みついたことを許してください」
リリィの目だけが動いた。声は別人のように変わっていた。
「…別に…謝ることない…わ…。これ…で、免疫が…一つ増えれば…いい。お前に…は…謝らない…、罰を受けているような…もの…」
「僕はあなたが地上の細菌やウィルスに弱いことを知りませんでした。ドクトル・ウマルが教えてくれたのです」
リリィは小さく笑ったようだった。
「余計なこと…を…。ウマルは…標本の世話をしていれば…いいのに…」
「彼が僕の常在菌を調べるそうです。原因が分かって早く治るといいのですが」
「…治すわよ…。夏至祭…女王とお前が舞台に立つのを…。もう行って…疲れたわ…」
カレナードはウマルと施療棟を出た。庭でアントニオと会った。彼は憔悴していた。
「あれの両親を失ってから、ワシの家族は高慢ちきな孫娘だけになった。リリィにもしものことがあったら、のう、ウマルや、ワシは…」
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