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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」23 苦い勝利

リリィはたじろいではいなかった。むしろそれを受け入れていた。カレナードはもう一度接吻した。
マハはその場にいることが出来なかった。カレナードはその機を逃さなかった。彼はリリィを抱いて診察台の上にそっと倒れた。
「僕だって大人の付き合いくらい出来ます」
リリィは返事の代わりにカレナードのローブの下に巧みに腕を入れて、彼の体を抱きしめた。明らかに戯れたがっていた。消毒液の香りが漂う中で、二人は口づけを交わした。数秒後、彼女は悲鳴を上げた。下唇の端が切れて血が滲んでいた。カレナードが噛みついたのだ。
「ドクトル・リリィ、目には目を、歯には歯を、です」
「よくも騙した…小僧が…」
「僕に何を期待したのですか。今ので十分だったでしょう。この続きはありません、娼婦の真似事はおしまいです」
「よくも騙した…」
「僕は何も騙していません。あなたのしたいようにして差し上げただけだ」
蒼白になったリリィを尻目にさっさと服を着て施療棟を抜け出した。
カレナードは訓練生棟には戻らず、実習棟に行き、射撃訓練場から出てきた二年訓練生の群れの脇を駆け抜けた。洗面・洗濯室へ入ると思い切り口をすすいだ。顔も首も手も腕も洗った。扉の鏡に映った自分に何も感じるまいとした。
そして、このことを忘れようとした。
彼は夕食のパックを持って小武闘室へ行った。先にキリアンがパックを持って来ていた。
「おい、大丈夫か、カレナード」
「僕がどうかしたかい」
「変なオーラが出てるぞ」
キリアンは親友の頬を手で挟んで、ペチぺチ叩いた。緊張が切れてカレナードはキリアンに寄り掛かった。キリアンが床に座ってパックの中身を食べる間、カレナードは横たわり、ぼんやりしていた。
「ときどき子供みたいだなぁ、お前…」
キリアンはふざけてカレナードの髪をくしゃくしゃ撫でた。その手をカレナードは捕まえて自分の口元に寄せた。
「本当に子供だな」
「キリアン、僕はひとつやり遂げた。次は踊り比べをやり遂げるんだ」
「この前言っていたベテランヴィザーツの件か」
「君の言ったとおり、負けて勝った…たぶん」
「何だ、その微妙な言い回しは。何をやらかしてきたんだ」
キリアンの問いにカレナードは応えなかった。
「後悔するようなやり方をしたんじゃないだろうな」
「大人の女って難しい…」
キリアンは叱った。
「お前、夏至祭で大事なことがあるのに、バカをやりやがったな」
カレナードは叫んだ。
「そうさ、僕もドクトル・リリィもバカだ!」
その勢いのまま夕食のパックを開いた。ドライフルーツ入りのポテトサラダとチーズとハムを挟んだライ麦パンがあった。彼は食べながら泣いた。
「僕はバカだ…」
復讐して溜飲を下げたはずなのに、彼は何かを間違ったと感じていた。
キリアンは親友の顔を何度も拭ってやった。
「泣くか食べるかどっちかにしろよ。バカなのはよく分かったからさ。まったく…」
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