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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」20 前哨戦

背をまっすぐにして、堂々と施療棟の廊下を進んだ。マハとすれ違いざまに余裕の笑顔で挨拶した。彼女はいつもと違うカレナードの態度に少々面食らったようだった。
「ドクトル・リリィ、診察時刻の変更を認めていただき、お手数をかけました」
彼はリリィの前に立ち、さっさと服を脱いだ。ブラウスの下にはコルセットもビスチェも帯も付けてなかった。彼はためらいを見せずに下穿きだけになった。フロリヤのイメージは彼を卑屈にさせず、リリィと対等のムードを作った。
「診察をお願いします」
女医は少年の態度には驚きを隠したが、口ぶりは嬉しそうだった。
「どういう風の吹き回しかしら」
カレナードはもう一度言った。
「診察を始めていただけませんか」
「そうね。この前はサンプルを取れなかったわ。マハ、居るの、採血の用意よ」
別室から助手の声が「はい」と返ってきた。意外にもリリィの診察は丁寧だった。カレナードの態度が、リリィを変えていた。
彼女は内診のとき、初めて彼にカーテンを使い、力を抜くよう助言した。カーテンの向こうから下腹部に乗せられたリリィの手はそれまでにない柔らかさがあった。
「いいわ、そのままリラックスしてなさい」
やっと彼女は彼をヴィザーツのひよっ子として扱った。
彼がアナザーアメリカンだからではなく、彼女に子供っぽい反感を抱き続けたゆえに、非人間的な扱いをしたのかもしれない。
カレナードの心にはそう考える余裕が生まれていた。
しかし、油断は禁物で、リリィがあの残酷な一面の持ち主であることを忘れてはならなかった。彼女が豹変するなら、その時は作戦を変える用意はあった。
採血をした後、診察台に横たわるカレナードの体を上から下へと触診していった。彼女はまだ医師の顔のままだった。
「筋肉に疲れが貯まっている。訓練だけではないわ。踊り比べのせいかしら」
「夏至祭のことをご存知なのですか」
「噂になっているわよ。艦長が秘密の特訓しているとか、そのためにまいないの品を贈ったとか、品物の代わりに彼の部屋で抱かれているとか。
いろいろ言われ放題よ」
カレナードは明るく返した。
「艦長の部屋には行っていません。品物はレッスン代にと友人が用意してくれたものです。僕には後ろ盾がありませんから。
それより疲れを貯めない方法を教えて下さい。体を壊してドクトルの手を煩わしたくないです」
「その心がけだわ。女王のパートナーはそれくらい気を遣うものよ」
彼女はリンパマッサージを教えると言った。
「艦長にも言っておくわ。レッスン後のメンテナンスに注意ってね。ふふふ、本当に彼はあなたに手を出さないの」
リリィは饒舌になって際どい問いを投げてきた。カレナードはあっけらかんと切り返した。
「彼はロープで縛って舐めまわすようなことはしませんし、僕もそんなのはお断りです」
リリィはカレナードの鎖骨に置いた手を一瞬止めた。
「ふうん、じゃあ艦長は紳士ね」
「彼は肝心のところはわきまえた方です。野獣でも無礼者でもありません」
リリィとの間に僅かに熱い緊張が走った。
「ドクトル、この話は次の機会にしましょう」
「良くってよ。楽しみにしているわ」
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