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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」18 助っ人達の手

ナサールは次の日には新しい練習場を確保してきた。小武闘室だった。壁には立派な鏡があった。お祭り男は多少の筋肉痛をものともせず、誇らしげに鏡を磨いた。
艦長はこの部屋に満足して、ますます熱心に教え込んだ。
「第1曲から第5曲までは、古謡らしく素朴でおおらかな旋律が特徴だ。明るい労働歌や祈祷師の詠唱に起源があるものばかりだ。第5曲は変調のところで気をつけるのだ。どれも品よく踊りたまえ。これらは元はアナザーアメリカの大地の精霊に捧げられたものだからね。野蛮な心根で脚を運ばないことだ」
レッスンの間、カレナードは集中した。課題とレポートを忘れ、強化訓練の疲れを忘れ、施療棟のリリィを忘れた。それは心地よかった。
その週のうちに、朝の自主レッスンにトペンプーラが加わり、指導するようになった。
「艦長に白羽の矢を当てられましたワタクシ、踊り比べの補充ダンサーですヨ。いい機会ですから、皆さんの特訓に参加させてもらいます。
一足先にバカンスに入るはずでしたが、夏至祭を堪能することにしました。よろしくネ」
体術の強者はエーリフに負けず劣らず、熱心な指導者だった。彼は自分の練習をしながらも新参達の姿勢と癖を直した。油断しているとトペンプーラの頑丈な脚が彼らの緩んだ部分に飛んできた。
「ほらほらッ!そこ、足首をきちっと開くのヨッ!」
伴奏のヤルヴィはすっかりトペンプーラに心酔していた。彼の眼には日に日にキリアンやミシコの上達ぶりが映った。
カレナードは週末には、空中で一回転しても綺麗な着地を決めて瞬時に次のステップに移るコツを掴んでいた。
用を成さなくなったコルセットの代わりに、ビスチェと胸を巻く帯を用意してくれたのはマイヨールだった。
この場合、彼女はは女子Y班のミンシャ達より適切なアドバイスをくれた。若い女は胸の谷間をきれいに見せるには一生懸命だが、カレナードはむしろその逆を求めていたからだ。
マイヨールは見事に応じれた。
「聞いたわよ、女王の御指名を受けたそうね。彼女と踊る以上は、15曲踊ったうえで優勝しなくてはならなくてよ」
「やはりそうですか」
「当り前よ、最後まで複数組が残る場合、女王とその相手が有終の美を飾らなくてどうするの。
もしも最後の曲で女王とあなただけが残った時は、あなたと彼女で優勝を競うことになるわ。どちらにしても大変な仕事ね」
マイヨールのサロンの衝立の陰で、彼はビスチェを着けてみた。それはなるべく胸の膨らみが目立たないよう直されていた。
マイヨールが着け方を教えた。
彼女は「ちょっと触るわよ」とことわってから、乳房をきれいにカップに納めた。
リリィに痛めつけられて以来 自分でも触る気にならなかったが、マイヨールの手は思いやりに溢れていて、彼の心は軽くなった。
マイヨールがゴム入りの帯をビスチェの上からひと巻きすると、男性の胸板に見えなくもなかった。
「跳んでも大丈夫です」
歴史学者はいい形になりそうな膨らみが勿体ないと思ったが、彼のために言わなかった。
「お代は待ってもらえますか、マダム・マイヨール」
「これは末娘に用意していたのが不要になったものだから、結構よ」
「娘さんの物を。いいのですか」
「彼女は魂が安らぐ場所へ行ったの。あなたに役立てることが出来て、ホッとしているところよ」
マイヨールの目に一瞬悲しみが走ったが、すぐにカレナードの背中を押した。
「夏至祭が楽しみだわ」
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