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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」14 気が狂っている

今回は性暴力的な場面があります。苦手な方、18歳以下の方は避けていただきますよう、お願いいたします。
カレナードはありったけの罵詈雑言を吐こうとした。
リリィは彼の口を手で塞いだ。
「誰もお前の言うことなど信じないわ。このまま診察してもいいけど、先にお仕置きしなくてはね。その口が要らないことを言えなくしてやるわ」
彼女はカレナードの顎を掴んだ。リリィの唇が彼の唇に重なった。爬虫類を思わせる冷たさだった。戦闘食のレーズン入りサンドイッチの香りがした。彼は必死で逃れようとしたが、リリィの指は力強く彼を捕えて離さなかった。ようやく顔を上げた女医に、カレナードは唾を吐いた。 
「まだ仕置きが足りないようね」
リリィは彼の頬を打った。
「お前が一番嫌がることをしてやる。覚悟おし。逃れる術などないのよ。
嫌なら石にでもなっていなさい。机でも椅子でもいいわ。感覚も感情も失くして、ただの物体におなり。それが出来たら少しは骨があると認めてやる」
カレナードは大声で助けを呼んだが、施療棟のヴィザーツは出払っていた。抵抗の方法を探したが、何もなかった。女医の言うように石にでもなるしかなかった。
リリィは彼のブラウスをはだけた。それから拷問のような接吻を再開した。
彼は懐かしいオルシニバレ市の石畳を強く思った。フロリヤと助産所に通った道、マヤルカと歩いた射撃場への道、出資寮とシェナンディ家を行き来した道。
リリィの舌が彼の口中をまさぐり、首筋や胸に痕をつける間、彼は遠い故郷の石畳に静かにしがみついていた。
女医はロープを外すと、珍しくタバコに火を点けた。
「ふん、けっこうやれたじゃないの。半分くらいにしか感じてなかったでしょ。お前に骨があるのは認めてやる。今日はもう帰りなさい」
カレナードはブラウスのボタンをかけ直した。
「あなたは悪魔だ。二度とここに来ません」
怒りを込めて言ったが、女医は意に介さず、煙をふっと吐いた。
「お前は来るわ。来なくてはならないわ。そうだわ、いいことを教えてやる」
リリィは彼の傍に来て、耳元でささやいた。
「お前、乳首が立っていたわよ」
カレナードは診察台の脇の消毒盥を持ち上げ、リリィの方に向き直るや頭から中身をかぶった。滴り落ちる消毒液の水音が響いた。リリィはその様子をじっと見ていた。指に挟んだタバコが半分になるまで彼女は身じろぎせず、カレナードもまた濡れたまま、その場に立ち尽くした。睨み合いの火花以外、何も動かなかった。
空になった盥が放り出され、金属のこすれる音が夜の施療棟にこだました。
訓練生棟の1階の階段でキリアンが帰りを待っていた。すでに点呼の時刻が過ぎて灯りもわずかになっていた。親友の姿を見つけると彼は立ち上がった。
「カレナード、消毒液くさいぞ」
2階の踊り場まで上ったところで、カレナードはキリアンの腕を取った。
「今日の練習をさらっておきたいんだ。第3曲を頼む」
「お前、怒っているんだな」
「そうさ、キリアン。僕は踊って忘れたいんだ。付き合ってくれ」
キリアンは始まりのポーズをとった。そこにカレナードは寄り添った。
「始めよう」
カウントを数えると2人はダンスにぎりぎりのその空間で踊り始めた。しばらくの間、軽いステップの足音が階段で鳴った。
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