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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」6 夏に向かう浮き船

カレナードはまだおかしい気分で、記録を次々とめくった。
「求婚には何と返事をしたのですか。記録には何もありませんが…」
「戯れ言を記録に残すわけがない。これは館長室だけに伝わる伝説だ。 特別に話してやったが他言無用なのは分かるな。女王の耳に入ると恐ろしいことになるからの」
キリアンはわざとまじめくさって訊いた。
「なら、なぜ聞かせるんですか」
「トルチフの記録を見たがる数少ない訓練生に語ってやるのが、歴代館長の密かな楽しみよ。うん、ふむ。髪の長いお前さん、女難の相が出ておる。夏至祭までは気をつけておれ。浮かれた連中がバカをやるからのう」
キリアンは途中から館長がカレナードをからかっていたのに気づいたが、黙っていた。女王のことになると過剰反応しがちな友人をそっとしておきたかったのだ。
浮き船のトルチフ巡航期間はわずか2日で終わり、アナザーアメリカ最北の高原に至る航路に入った。
新参訓練生は古参と共に倉庫から引っ張り出してきた祭り装束を自分の部屋へ持って帰った。
女子は白いワンピースの長衣に肩から腰にかけて飾り帯を垂らし、男子はゆったりした白のチュニックとズボンで、腰を飾り帯で締めた。
「いいか、新参ども。この衣装は夏至祭の伝統そのものだ。だらしない姿は許されない。
身の丈に合わせ補正すること、ほつれている刺繍は補修すること。
六の月の朔日にチェックしに来るから、それまでに整えておくんだ」
こうして仕事が増えるのだが、ヤルヴィは聞き慣れない曲を練習し始めた。
「これ、踊り比べの第9と10と11と13から15曲だよ。僕は軍楽団に正式に入ることにしたんだ。ハーリも一緒にね」
カレナードはその旋律とリズムを覚えておきたかった。かつて出資寮やシェナンディの仕事場でもダンスは嗜むものとして、皆で踊ったのだ。それは時に教師を呼ぶほど熱心に行われていた。
キリアンもカレナードにつきあった。ヤルヴィは張り切った。アレクが言った。
「音楽があるのはいい。針仕事がつらくなくなるからなぁ」
マリラは、戦闘訓練月間の開始にあたりヴィザーツに訓示を行った。それは各部署ごとに行われ、ほぼ全ての乗員が女王直々に檄を飛ばされることになった。
彼女はオレンジの戦闘服に真珠色のマントと美しい胸当てを着け、銀の剣を佩き、軍人たるヴィザーツ達を奮起させた。
「アナザーアメリカの守護者達、愛しい私のヴィザーツ達よ。夏至祭までの数週間はかつてないほど厳しい訓練となるだろう。
我々の真価を問われる時が間もなくやって来る。アナザーアメリカの秩序を崩壊させ、混沌の世に陥れようとする玄街どもをこれ以上放置するわけにはいかぬ。
我々の新たな使命は奴らの根城を完膚なきまでに潰し、葬り去ることだ。
ガーランドに集うヴィザーツ達よ、新しく加わったそなた達の責務を果たすのだ。私はそなた達の先頭に立ち、進むべき道を示すだろう。
共に行こう。戦いとるべき調停の世なら、戦いとって守り抜かねばならぬ。
夏至祭には鍛えられて輝くそなた達の姿を見せてもらおう。
オンヴォーグ!ガーランド・ヴィザーツに大地の加護があらんことを!」
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