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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第5章「夏至祭の前」

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第5章「夏至祭の前」4 トルチフに落ちる花束

マイヨールがちらっとカレナードを見たが、ヤルヴィが勢いよく手を上げた。彼が答えている間、カレナードはキリアンにそっと尋ねた。
「ヴィザーツの間では事件なんだな」
「スコラの授業では必ず歴史上の大事件として学ぶんだ」
「わざわざ現地に来るのは、そのためか」
「ああ、ヴィザーツにとって、ここは過ちの場所だ。どんな理由があれ、アナザーアメリカンに使ってはならない武力を使ってしまったんだ。それを忘れないために、毎年春分のあとでここを訪れるんだって、父が言ってたよ」
マイヨールの声が耳に入って来た。
「トルチフ大火は今なお女王が悔やんでいる事件です。
事実上は戦争への介入で、アナザーアメリカで唯一の戦争を終わらすためにガーランドが取った方法としては最悪でしたからね。
玄街に対しガーランドが全面的な攻撃を開始するのに女王は慎重です。トルチフの二の舞は避けねばなりません。ゆえに我々と玄街との戦いは周到な準備と計画が必要になるでしょう。
トルチフはアナザーアメリカンにもヴィザーツにも教訓を残す土地なのです」
上空から見るトルチフの台地は乾いていた。だが、谷間には日に日に濃くなっていく緑があり、遊牧民のテントと小さなコロニーが点在していた。こののどかな風景がかつては炎に包まれていたのだ。
カレナードは想像した。
たしかにここに領国を再建することは出来なかっただろう。ヴィザーツに焼かれることは、アナザーアメリカンにとって最強の呪いをかけられるに等しかっただろう。
彼は小さなコロニーがかつてのトルチフの子孫なのか訊いた。マイヨールはトルチフの民は大部分がミセンキッタの大河西岸で開拓民となったと答えた。そして、その子孫がここに戻ってコロニーを作っている可能性はあると言った。
「あなたは過去と現在の強い関連性を考えています。新しいモノが歴史を一変させる事象に注意してご覧なさい」
次の日、浮き船は高度を下げ、亡きトルチフ領国の慰霊祭を行った。
400年前にガーランドの砲撃で命を落としたのは領国主兄弟とその側近、ガーランドの決定に耳を貸さなかった者達で、大部分の領国民は移住の苦難に会いはしたが、トルチフの大火から逃れたという。
そのためか調停完了祭などに比べると実にあっさりしたものだったが、訓練生達は古参から十ヶ月訓練生に至るまで、全員が制服に喪章を付けて第4甲板に並び、マリラと共に弔いの辞を唱えた。
「古き死は近い闇において甦り、永遠の存在となる。我らの隣に古き魂はあり、青い夜に我らを呼ぶ。古き魂の足跡をたどり、寄り添うべし。
我らは知る、大いなる安息と大いなる生の苦しみを」
女王は甲板の端まで行き、花束を投げた。それはゆっくりと空を漂い、落ちて行った。訓練生達が甲板を去る時も、女王はまだトルチフを見おろし、黙祷を捧げていた。彼女の肩がいつもより細く見えた。
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