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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」39 二オララの太陽

ガーランドはゆっくりと北に向かっていた。
アレクの故郷ニオララでの半日停泊の間、飛行艇がこの町のヴィザーツ屋敷と浮き船を頻繁に行き来した。
エアシャワーを終えて、新参訓練生棟へ戻ったアレクは詰所に5人の女がいるのを見るなり、逃げ出そうとした。
「姉貴!叔母さん!又従姉妹!なんで来るんだよ」
キリアンがアレクの首根っこを離さなかった。
「アレク、逃げるな。いいから彼女達を紹介しろ。特にあの又従姉妹達をシャルに押し付けてやれ」
あっという間にアレクは女達に包囲された。
彼女達は陽気で、1年間は故郷に帰れない弟分が可愛くて仕方がない様子だった。
「姉貴、もう帰れよ。飛行艇を私用に使っちゃ駄目だろ」
「あら、私用じゃないわ。私はこれでも飛行艇管制システムの更新講習に来ているのよ。さっき終わったばかりなんだから。これから実地研修よ。
案内してよ、第3管制室ってどこ」
「叔母さんも、ほら、エリ、ターワ、クラックも。用もないのについて来ちゃ駄目だろ」
叔母さんと呼ばれた20歳ほどの女は不敵な笑みを浮かべ、又従姉妹の3人は猫のようにすり寄った。
「かたいこと言わないの、アレクちゃん。あたし達もそれぞれ用があって来たのよ。ニオララ特産スライスニンニクの搬入よ」
「嘘つけっ。それは納入業者の仕事だろ。それにちゃん付けで呼ぶなよ」
女達は太陽のように笑った。
「こりゃあ大変だな」とその場にいた新参訓練生は喜んだが、彼女達の次の標的が自分達だとは考えないのだ。
賑やかな一団の脇をハーリ・ソルゼニンが足早に通り過ぎた。彼は階段を駆け上がっていった。
アレクが仕方なく女軍団を第3管制室まで案内しに出発した。シャルと何人かも一緒だった。詰所の前は静かになり、午後の遅い春の陽が射し込んだ。
ハーリが私服に着替え、階段を下りて来た。開け放された扉からは前庭の花々の色彩が鮮やかに散らばって、美しい絵のようだった。彼は階段の一番下の段に腰掛けて、しばらく外を眺めていた。何か決心するのを待っていた。やがて立ち上がると、前庭を突っ切りマルゴのアパルトマンに向かって歩き出した。
ミシコとキリアンとカレナードは部屋に残って片付けをしていた。休日の前日に済ませておくルールにしていたので、うるさいシャルがいない間がチャンスだった。
キリアンが窓を全部開けた。
「ああ、今日は天蓋も開いてる。ブルネスカにもこんな穏やかな風の日があるんだな」
ミシコとカレナードは開いた窓に次々と布団を掛けた。ベッドの下に落ちっぱなしの靴下やタオルや本を各自の籠に放り込むと、キリアンが待ってましたと床の範囲指定をして、清拭コードを唱えた。ミシコがシャルの枕の下から古い写真を見つけた。
「あいつ、こういうのが趣味なのかな」
机を片付けていたキリアンとカレナードも見に来た。写真では、小さな帽子以外何も身につけてない青年が澄まし顔でポーズを決めている。 3人で、あれこれ言い合ったあげく、写真を元に戻した。
「こんな所に置きっぱなしにするなよな」
「見なかったことにしてやろう、班長殿」
「もちろんさ。唯美主義者の面子を潰すと怖いからな」
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