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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」38 アイデンティティ

マイヨールは続けた。
「あなたも私も、アナザーアメリカの全ての人も、マリラ・ヴォーの不死女王としての姿だけを求めているわ。そして、女王の彼女を支えている人は大勢いても、プライベートの彼女を知る人は誰一人いない。
女王でないマリラ・ヴォーを想像できるかしら」
部屋には静寂が漂った。2人は口には出さず静寂をその答えにした。
「マダム・マイヨール、僕はどうすればいいのでしょう」
「ガーランド乗船の禁忌を犯して生還した初めてのアナザーアメリカンですもの。私人のマリラにルールがないのは、あなたをどう扱うか決めかねているのでしょう。態度に一貫性がないのは、おそらくそのせいね。
その時々の気分で扱われるのは、あなたにとって不条理なことね。ただ…女王は不安定な自分をさらけ出せる相手として、あなたの器の大きさを認めているのかもしれないわ。
彼女は人を見る眼は確かなのよ。器のない者を紋章人にはしないし、ガーランドに置くこともしないわ」
カレナードは首を振った。
「僕にそんな度量があるとは思えません。…僕はただの…アナザーアメリカンです」
マイヨールは少年の肩に手を置いた。
「女王があなたをどう扱おうと自信を失ってはだめよ。カレナード、一人前のヴィザーツになる道はあなたの前にある。
私はあなたを応援するわ。
辛いでしょうけど、必ず思い出して。あなたを支える人間がここにいることを」
カレナードは頷いた。
「それから、あなたと私にはちょっとした共通点がある。分かるかしら、同じ体を持っているのよ」
マイヨールは、カレナードがその意味に気付くまで5秒ほど待った。彼は少し顔を赤らめた。マイヨールをそのように見たことはなかったのだ。彼女は頼もしく言った。
「あなたと同年代の女性には出来ない手助けが必要になったら、いつでも力になるわ。それから話がしたくなった時もね。歳の離れた友人としての私をマダム・マイヨールと呼んで欲しいわ」
「マダム・マイヨール…。よろしいのですか」
「良いも悪いもないわ。私はあなたに大きな可能性を感じるの」
マイヨールは手を差し出した。カレナードはその手を拒まなかった。40年余を生きて来た女の手は厚く、長い指が確かな感触で彼の手を包んだ。カレナードはフロリヤよりもずっと年上の己知を得たのだった。
1人になってからマイヨールは考えた。
「女王を演じることが出来るほどの才能と度胸…。彼はなろうと思えば、誰よりも女王の深い理解者になれるかもしれない。いえ、理解者というよりは伴走者かしら。
でも、今のところは無理。
彼は女王のマリラ・ヴォーと私人のマリラ・ヴォーを分けて見ることが出来ないようだわ。仕方がない、彼が求めているのは幼い時に出会った女王の部分だけだから…。
どちらのマリラも受け入れられたら、彼はずっと楽になるでしょうに。
矛盾と不可解に満ちた女王…、認めるには、きっと時間が要るわね」
彼女はワインクーラーの最後の一滴を、瓶から直接飲んだ。
「澱があったわ」
それから、カレナードが座っていた窓辺にその瓶を置いた。
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