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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」36 供養のグラス

カレナードは訊いた。
「マダム・マイヨールは玄街と戦うのですか。軍人として」
「カレナード、私は守りたいものがあるわ。私の家族、私の大切な人達、あなたを含む私の教え子達。それから、ヴィザーツの本分を守る。争いを戦禍なしで収めるシステムを構築すること。これをおびやかす者とは戦うわ。歴史学者の持てる方法でね」
「銃を持ちますか」
「持つべき時が来たら、引き金を引くわ。迷わないわ。それが一人前のヴィザーツよ」
「僕は…まだまだです」
「それでいいの、焦る必要はないわ」
マイヨールは空になったグラスにワインクーラーを注いだ。
「ミーナの死はきつかったでしょう。玄街間諜とはいえ人の死を間近で見るのはね…」
彼女はグラスを胸の前で捧げて言った。
「ミーナ・クミホの魂に」
カレナードは祈りの言葉を唱えた。マイヨールがそれに加わった。
「死によりて我は生まれる、暖かな闇に。足跡によりて我は知られる、永遠の存在に。大地の精霊がオリガ・ヨセンタの魂を迎え、大いなる循環の輪に入ることを、夜と星によりて知らしめよ」
2人きりの、ミーナことオリガ・ヨセンタの供養だった。グラスの中身は飲み干された。
「アナザーアメリカンのあなたが新参訓練生になって数ヶ月の間に強襲訓練と情報部の仕事を経験すれば、こんがらがって当たり前。
まして自ら望んでヴィザーツになりたかったわけではなかったのに、よく学ぼうとしているわ。元出資寮生さん」
「ええ、僕はシェドナン奨学生資格で地学と建築学を学んでから、父のようにアナザーアメリカを旅したかったのです。いつかサージ・ウォールの向こうへ行きたかったのです」
「そうだったの。アナザーアメリカンがヴィザーツになるのはそう難しいことではないわ、カレナード。ヴィザーツの本分を心身に刻みこんで忘れなければ、それは可能なのよ。
ヴィザーツの中には、制約の多い生き方に馴染めずにアナザーアメリカンとして生きる事を選ぶ者もいれば、アナザーアメリカンの中から密かにヴィザーツの人生を歩む者もいるのです。知らなかったでしょう」
カレナードは驚きつつも、黙って頷いた。マイヨールは言った。
「公然の秘密ですから、私達はあえて口にしません。アナザーアメリカンも知らないことです。でも、あなたには伝えておきたいわ。私の祖父がそうだった。それから情報部副長ね、彼もそうよ」
「トペンプーラさんが…」
「彼が新参訓練生でガーランドにやって来た時、私は4年生でいたの。
彼ね、物心つく前にヴィザーツの養子になってて、 自分の出自を知らないままここに来た。それで悩んで迷って…それはもう当時の教官をてこずらせたわ。」
カレナードはふとキリアンを想った。彼の紫色の目がもう迷ってないことに安堵を覚えた。
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